研究について

研究成果

大正関東地震(1923)における相模湾海底地すべりと津波の発生について

発行年月 港湾空港技術研究所 報告 63-1-3 2024年03月
執筆者 村田 一城、戎崎 俊一、佐々 真志、髙川 智博、 増田 光一、宮本 卓次郎、大野 正人、丸山 茂徳
所属 地盤研究領域 動土質研究グループ
要旨

 本年度で百年を迎える大正関東地震は,1923(大正十二)年9月1日に発生し関東地方を中心に深刻な被害を与えた.この地震によって伊豆半島東岸から房総半島東岸までの沿岸各地において,津波が襲来し甚大な被害をおよぼした.特に熱海の被害は壊滅的であった.震災後,陸域地盤の変動量の記録に基づきKanamori(1971)やAndo(1971)をはじめとする数多くの断層モデルが提案された.しかし,各断層モデルを用いたとしても,当時の沿岸地点で観測された津波規模とその初動等は十分に説明できず,当該津波の成因は未だ理解できていない点が多い.本研究は,当時の津波の主因が,相模湾および東京湾口海底で発生した大規模な海底地すべりであった可能性が高いことを,大正関東地震前後の水路部(1924)の記録に基づき検証した.本論では,第一に,既存の断層モデルに基づく津波の再現性が記録と不一致であることを数値計算によって詳細検討し,当時の各沿岸地点で観測された津波規模やその初動等は十分に説明できないことを明示した.第二に,水深変化記録と地震時海底地盤の詳細動態の関係性を理解するため,地震前後の水深記録と現在の水深データとの差分をそれぞれ取り,確率密度分布による統計分析を実施し,本水深変化記録が大規模な海底地すべり流動現象であることを明らかにするとともに,約40 kmに渡る海底地すべりの流出距離の海底地盤勾配がわずか0.4°以下であることを見出した.第三に,前述による結果を踏まえ,各沿岸地点の津波高さ記録や横須賀験潮儀で観測された津波の時刻歴波形などを用いた津波逆伝播解析と海底地形判読分析を実施し,相模湾海域における海底地すべり津波の発生源の位置を同定するとともに,その位置が真鶴海丘南部斜面域に分布していることを明示した.最後に,高密度液状化重力流による海底地すべり津波波源モデルに基づき,断層モデルとの二重波源を考慮した津波数値計算を実施し,最大津波高12 m以上の観測記録と最大津波高2~5 mで再現された断層モデル間の誤差を定量的に説明するとともに,横須賀験潮儀の時刻歴津波波形を殆ど誤差なく再現できることを示した.

キーワード:大正関東地震,1923年9月1日,津波,海底地すべり,液状化,水深変化記録

全文 REPORT63-1-3本文(PDF/9,013KB)
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