研究について

研究成果

堆積物表層への鉄剤散布による硫化水素溶出抑制に関する室内実験

発行年月 港湾空港技術研究所 報告 63-1-1 2024年03月
執筆者 井上 徹教
所属 海洋環境制御システム研究領域
要旨

 本稿は“Water Science and Technology”で出版された論文“Effects of three iron material treatments on hydrogen sulfide release from anoxic sediments”を日本語訳したものに加筆したものである。毒性の強い硫化水素は,沿岸域では嫌気条件下で堆積物から供給される.本研究では,鉄剤(0 価鉄,酸化鉄, 酸化水酸化鉄)を富栄養化した堆積物表面に散布することによる無酸素条件下での硫化水素の溶出抑制効果について,室内実験により検討した.いずれの鉄材も硫化水素溶出抑制効果があることが示されたが,特に酸化水酸化鉄の効果が高いことがわかった.これらの効果の違いの一因として,それらの材料が持つ硫化水素との反応速度による違いと,酸化力または還元力による違いが考えられた.また,十分量の鉄材の散布により,少なくとも3週間は効果が持続することがわかった.しかし散布量が少量(150 mmol m-2 以下)の場合は,その効果はほとんど期待できないことがわかった.また,単 純なモデル検討の結果,硫化水素溶出抑制に必要な2価鉄濃度は,硫化水素と鉄との反応速度定数, 硫化水素の堆積物中での見かけの拡散係数,鉄材の浸透厚さにより規定されることが示された.ここで,硫化水素と鉄との反応速度定数と硫化水素の堆積物中での見かけの拡散係数は物性値であり不変であるため,鉄材の浸透厚さが重要な変数となることが示された.また,本実験での散布量の場合, 理論的には数年間の硫化水素溶出と等量程度であることが見積もられた.本研究成果は,スラグ等の適用が難しい,航路や泊地などへの使用において活用可能である.

キーワード:堆積物,鉄材散布,硫化水素溶出,抑制効果

全文 REPORT63-1-1本文(PDF/1,326KB)
REPORT63-1表紙・奥付(PDF/580KB)