研究について

研究成果

気候変動に伴う浅海生態系面積変化の全球推定

発行年月 港湾空港技術研究所 報告 62-4-1 2023年12月
執筆者 茂木 博匡、桑江 朝比呂
所属 沿岸環境研究領域 沿岸環境研究グループ
要旨

 浅海域における海底への炭素貯留速度は海洋全体のおよそ7379%を占めていることから,気候変動の緩和策として浅海域の活用に期待がもたれている.また,浅海域が有する懸濁物質の集積効果やサンゴの成長に伴う地盤高の形成が海面上昇の相殺に寄与することや,サンゴやマングローブなど流動抵抗を有する生態系は波浪を減衰することから,浅海域の減災効果にも注目が集まっている.しかしながら,近年では気候変動に伴う水温変化や海面水位の変化などが生態系に及ぼす影響への懸念が高まっている.したがって,気候変動による浅海生態系の面積変化の予測が重要となってくるが,現時点では特定の浅海域を対象とした予測,あるいは特定の生態系のみに着目した予測しかなされていない.そこで本研究では,全球における浅海域の地形データと植生分布データを整理して統合し,全球気候モデルから得られた水温や海面水位の計算値を用いて,主要な浅海生態系全て(サンゴ,海草藻場,海藻藻場,塩性湿地,マングローブ)の面積の将来変化を予測した.

 その結果,サンゴの生息域においては海水温変化に伴い,2100年までに温室効果ガスの排出量が最小のシナリオ(RCP2.6)では現況のおよそ75%,最大シナリオ(RCP8.5)ではおよそ25%まで大幅にその面積が減少すると推定された.その他の浅海生態系(海草藻場・海藻藻場・塩性湿地・マングローブ)においては現況と比べて面積が大きく変わらないかあるいは拡大すると推定された.したがって,浅海生態系の緩和機能の観点からは,単位面積当たりのCO2吸収速度が大きいマングローブや全球の浅海域において優先する海藻藻場の面積が大きく変化しなかったことから,将来的にも現況と同程度のCO2吸収速度が維持される可能性が示された.さらに,浅海生態系の減災機能の観点からは,サンゴ生息域においては面積の大幅な減少により,その機能が低下する可能性があるものの,他の浅海生態系は海面水位の変化などの外力変化に適応し,減災効果を維持する可能性が示された.

 本研究により,全球の各エリアにおける浅海生態系面積の将来変化を考慮した気候変動緩和効果の定量的な予測,そして海面水位の変化や極端気象の発生に伴う沖合波浪エネルギー増大に対応するための生態系を用いた減災(Eco-DRR)や人工資本(グレーインフラ)とのベストミックスといった様々な気候変動適応効果の定量予測も可能になることから,様々な気候変動対策への貢献が期待できる.

キーワード:浅海生態系,全球分布,気候変動

全文 REPORT62-4-1本文(PDF/5,332KB)
REPORT62-4表紙・奥付(PDF/546KB)