研究について

研究成果

実用的な沖波諸元の設定方法に関する基礎的研究

発行年月 港湾空港技術研究所 報告 62-3-3 2023年09月
執筆者 平山 克也、森谷 拓実
所属 沿岸水工研究領域 波浪研究グループ
要旨

 港湾施設や海岸保全施設などの設計波の算定に用いる設計沖波は,浅海変形が生じない深海域で設定するのが基本である.しかし,遠浅の海底地形や内湾に面する港湾等では,深海域が設計対象施設から遠く離れてしまい,設計沖波に設計対象施設沖の風場による波浪の発達が考慮されないことが懸念される.そこで,港湾・海岸保全施設設計の実務においてはこれまで,設計対象海域の風場による波浪の発達を考慮できるように,浅海域に設けた地点に対し深海条件とみなした波浪推算を実施して, 設計沖波を(深海波として)疑似的に算定することも行われてきた.一方,近年では,計算機と波浪 推算技術の発達により,浅海変形(海底地形)を考慮した高精度な波浪推算が広く実施されるようになってきている.このとき,設計対象施設沖の浅海域で出力される波浪推算結果は厳密には沖波ではない(深海条件を満たさない)ため,港湾・海岸保全施設における現在の設計体系に浅海波浪推算技術を適切に導入するための新たな解決方法の提案が急務となっている.
 本研究では,浅海域のある地点において,浅海条件で得た推算結果を準沖波,浅海域を深海域とみなして疑似的に設定された沖波を疑似沖波と定義し,本来の定義に従う沖波と区別することを提案した.また,これらの新しい概念を導入することの妥当性や従来法との共通点・相違点について述べるとともに,準沖波を用いて堤前波を算定する波浪変形計算の方法や留意事項について具体的な事例をもとに示した.
  一方,(確率)準沖波に対して港内施設の設計波を算定するためには,沖からの波浪変形を考慮できるよう同時に(確率)沖波を逆推定する必要があり,この際には方向集中度𝑆maxも適切に設定しなければならない.そこで,既存の確率準沖波諸元及びその算定に用いた波浪推算結果を用い,沖波地点 及びNOWPHAS波浪観測地点における確率波諸元を逆推定するとともに,極値統計解析結果との比較 を通じて,それらの妥当性を検証した.これらの結果,逆推定される沖波の𝑆max値は沖波諸元だけでなく波浪変形計算により算定される設計波諸元にも影響を与え得るため,慎重に設定すべきことがわかった.さらに,これらの波浪変形計算を適切に実施するために重要となる沖波諸元の逆推定について,新たに作成した算定図を用い,初期値とする沖波諸元の概略値を簡易に推定する手法を提案した.

キーワード:準沖波,疑似沖波,設計沖波,深海域,浅海域,波浪変形計算,波浪推算

全文 REPORT62-3-3本文(PDF/17,560KB)
REPORT62-3表紙・奥付(PDF/680KB)