研究について

研究成果

フリングステップを考慮できる複合型震源モデルの提案

発行年月 港湾空港技術研究所 資料 No1401 2022年03月
執筆者 野津厚、呉双蘭、長坂陽介
所属 地震防災研究領域 地震動研究グループ
要旨

 規模の大きい内陸地殻内地震において、断層の破壊が地表付近まで到達する場合や、地表地震断層が現れる場合は、その近傍において永久変位成分を含む地震動が生じる。このような永久変位成分を含む地震動はフリングステップと呼ばれることが多い。フリングステップは主に断層浅部のすべりにより生じるものであり、断層の破壊が地表に到達した2016年熊本地震本震では顕著であったが、断層の破壊が地表に到達しなかった1995年兵庫県南部地震の神戸側では、断層深部に位置するアスペリティの破壊による影響が支配的であり、フリングステップは顕著でなかった。このため、従来の設計地震動に関する研究では、深部に位置するアスペリティの破壊による影響が主に考慮され、浅部のすべりの影響は十分に考慮されてこなかった。そこで本研究では、従来から考慮されているアスペリティの破壊に伴う強震動に加え、フリングステップも考慮できる複合型の震源モデルを新たに考案した。この震源モデルは、アスペリティに対応する領域Aとその外側の領域Bからなる。領域Aは深部に留まるが、領域Bは地表付近まで到達しフリングステップを生じる。領域Aからの地震動は従来通り修正経験的グリーン関数法で計算するが、領域Bからの地震動は離散化波数法で計算し、その結果を加算する。領域Bからの地震動を離散化波数法で計算するのは、フリングステップの計算において、地表面における反射係数を厳密に扱うことが必要だからである。本研究では、まず、離散化波数法による計算結果を静的な永久変位に関する解析解等と比較することで、フリングステップを正しく計算するために必要な計算条件を明らかにした。次に、複合型の震源モデルを実地震である熊本地震本震に適用した。震源モデルをできるだけ簡便で利用しやすいものとすることを念頭におき、測地学的データを説明するように設定された国土地理院の震源モデルを出発点とし、これに最小限の動的な情報を付与することで領域Bを設定し、これに領域Aを加えることで複合型の震源モデルを構築したところ、実際の観測事実と整合するシミュレーション結果を得ることができた。

キーワード:フリングステップ、震源モデル、断層、地震動、離散化波数法

全文 TECHNICALNOTE1401(PDF/2,151KB)