研究について

研究成果

海洋鋼構造物に適用された電気防食の維持管理に関する検討

発行年月 港湾空港技術研究所 資料 1392 2021年12月
執筆者 山路 徹、原 将之、能登谷 健一、山廼邉 伸充、高橋 康弘、小林 茂則、渡部 昌治
所属 構造研究領域 材料研究グループ
要旨

 海洋・港湾施設への定期的な点検診断の実施は、維持管理制度の確立に伴い、広く普及してきている。海洋鋼構造物に適用された電気防食の一般定期点検診断においては、目視点検の場合の定性的な指標(劣化度a、b、c、d)ではなく、「電位」という定量的な数値が得られる。ただし、点検診断結果が一般的に公表されている例はほとんどない。電気防食の詳細点検診断(陽極消耗量、陽極発生電流量、陽極の脱落の有無など)についても同様である。これらの情報が公表・共有されれば、電気防食に関する点検診断がより効率的に実施できるようになると考える。さらには、点検診断に関する新技術の開発の際の参考資料としても活用可能と考える。
 また、上述の電位(E)と陽極発生電流(I)の間には理論的には相関関係がある。そして、ある程度の精度で、電位から陽極の消耗量(通常、潜水調査により把握)すなわち陽極の残存寿命が推定できる可能性が指摘されている。ただし、その推定精度を検証された事例は少ない。
 以上を踏まえ、電気防食の点検診断の高度化・省力化に資すること、そして点検診断の結果を公表・共有することを主目的として、電気防食に関する各種の点検項目(電位、陽極発生電流量や陽極消耗量、陽極の取付状況確認等)に関して、最近実施された定期点検診断結果の整理、そして追加で実施した調査結果のとりまとめを行った。本検討より得られた主な知見を以下に示す。
1)ジャケット式構造物および鋼管杭式桟橋における、電気防食に関する点検診断結果の実態(経時変化、場所によるばらつき等)を示した。
2)ジャケット式構造物(羽田空港D滑走路)において、陽極取付状況の確認がなされているが、5年後および10年後の調査結果(それぞれ1500個程度)において、陽極が脱落していたものは皆無であった。また、矢板式構造物において、電位測定により陽極脱落を把握できた事例を示した。
3)既往の知見と同様に、今回の事例における鋼材の電位と陽極発生電流(電流低減率)の関係は、設計時での想定値(電位:-935mV、電流低減率:0。5)を同時に満足しているものが大半であった。今回の結果においても、電位があるしきい値を下回れば陽極寿命が陽極の設計耐用年数を満足すると判断できる可能性が改めて示唆された。

キーワード:海洋鋼構造物、電気防食、電位、陽極発生電流、陽極消耗量

全文 TECHNICALNOTE1392