研究について

研究成果

富山湾・寄り回り波の力学機構

発行年月 港湾空港技術研究所 報告 60-1-3 2021年06月
執筆者 田村 仁・川口 浩二・藤木 峻
所属 海洋利用研究領域 海象情報研究グループ
要旨

 富山湾沿岸部に襲来する「寄り回り波」は古くから知られたうねり性の高波であり、過去に何度も甚大な沿岸災害をもたらしてきた。今後起こりうる巨大波の襲来を事前に予測することは沿岸部の減災にとって極めて重要な課題である。しかしながら寄り回り波はなぜ巨大化するのか、といった根源的な問いへの答えが未だに見いだせていない。本研究ではNOWPHAS観測のデータ解析、波浪モデルによる過去再現計算と数値実験、および任意水深球面座標系でのRay方程式などいくつかの解析手法を用いて寄り回り波の力学機構の解明を試みた。NOWPHAS波浪観測記録(2007年から2016年までの10年間)から抽出された寄り回り波は全26ケースであり年平均で2,3回程度、10月から4月にかけて発生していた。観測結果およびスペクトル波浪モデルから得られた寄り回り波解析の結果は下記の通りである。
 (1)寄り回り波は有義波高の短時間変動と波群構造によって特徴づけられ、またこれらの出現はうねり周期に依存する。
 (2)既往の研究結果と同様に第三世代波浪モデル(スペクトルモデル)では有義波高を再現できない。
 (3)寄り回り波発生時には入射波として狭帯スペクトルが形成されている。
 (4)寄り回り波が出現する沿岸部ではエネルギー収束帯に重合波浪場(双峰スペクトル)が形成される。
以上のことから寄り回り波は「準単色波の位相干渉機構」であると仮説を立て、これを位相分解モデルで確認した。多くの従来研究ではスペクトルモデルが前提とする「無数の成分波がランダムに重合」した波浪場という視点から寄り回り波現象の再現と解明を試みてきた。しかしながら本研究では、寄り回り波は「少数の成分波が特定の位相関係を持って干渉」する力学過程(coherent interference、可干渉性)である可能性が極めて高いことを示した。このことは19世紀初頭に行われたヤングの「二重スリット」実験と力学的に相似であり、その対比からうねり性波浪の巨大化メカニズムが解釈できる。

*「付録動画データ」は港空研で保管

キーワード:寄り回り波、富山湾、準単色波、可干渉性、位相平均・位相分解波浪モデル

全文 REPORT60-1-3(PDF/8,027KB)