研究について

研究成果

2019年台風15号による横浜港に襲来したうねり性の波浪

発行年月 港湾空港技術研究所 報告 60-1-2 2021年06月
執筆者 田村 仁・川口浩二・岩本匠夢・藤木 峻
所属 海洋利用研究領域 海象情報研究グループ
要旨

 2019年9月に発生した台風15号(アジア名Faxai)の直撃は、首都圏の陸上および沿岸部に甚大な被害をもたらした。台風による猛烈な海上風は高波をもたらし、東京湾内のNOWPHAS第二海堡では1991年からの観測開始以降で最大の有義波高が記録された。この高波により数多くの港湾施設や防波堤が損壊しその背後地で浸水被害が発生した。事後調査からは非常に特徴的な被災状況が2点報告されている。1つ目は顕著な沿岸被害を受けた海域が局在化されていたことである。東京湾全域に最大で30m/sに及ぶ強風が吹き荒れていたにもかかわらず、沿岸被害は東京湾西岸の横浜港周辺にのみ集中していた。2つ目は高波の襲来方向である。倒壊したフェンスや植生の痕跡から推定される越波方向は北東および南東の範囲(2方向波)で分布していた。本研究では台風15号による沿岸被害はどのような海象条件下でもたらされたのか、またなぜ沿岸被害は横浜港周辺にのみ局在化したのか?これらの問いに対する解を提示することを主目的として、第三世代波浪モデルによる過去再現計算および数値実験を行った。
 過去計算から得られた最大有義波高は、その空間的な差異が小さく被害海域との関連性も不明瞭であった。一方で沿岸被害の集中した横浜港周辺では有義波高の最大ピーク時に特異的な波浪場が形成されていた可能性が示され、その波浪スペクトルは次の2つで特徴づけられる。
  (1)横浜港周辺で卓越した東風(~30m/s)に対応する波向きの成分波が存在しない。
 (2)波浪スペクトルは3成分で構成され、それら全てが風波領域に存在する。
波浪モデルによる数値実験からこれら3成分波の内、2成分は東京湾および浦賀水道北部の2つの海域で生成された風波成分、また残りの1成分は外洋で生成された波浪がうねり性波浪として横浜港沖へ伝搬したことを示した。さらにそれぞれの波浪力学過程として、傾斜吹送距離条件下での風波発達および東京海底谷の屈折作用の重要性を明らかにした。本研究においては横浜港周辺に甚大な被害をもたらしたのは湾外からのうねり性波浪に起因する可能性が高いと結論付けている。実際、有義波高の自乗と平均周期の積で算定される最大波パワー(エネルギーフラックス)の空間分布は、浦賀水道から続く筋状の極大値が横浜港周辺まで延伸し、まさに沿岸被害が集中した横浜港・金沢区沖は東京湾内でも特異な海域となっていたことが示された。これは台風15号による強風下でうねりが急速に発達しながら金沢区沖まで到達したためであると考えられる。

キーワード:2019年台風15号、東京湾、横浜港沿岸被害、波浪スペクトル

全文 REPORT60-1-2(PDF/8,999KB)