研究について

研究成果

波の遡上域における海浜地形変化に及ぼす潮汐変動の影響に関する検討

発行年月 港湾空港技術研究所 報告 60-1-1 2021年06月
執筆者 伴野 雅之・栗山 善昭
所属 沿岸環境研究領域 沿岸土砂管理研究チーム
要旨

 本稿はGeophysical Research Lettersで出版された論文「Supermoon Drives Beach Morphological Changes in the Swash Zone」の日本語訳版であり、より詳細な記述や追加の図面を付与したものである。
 海浜地形は波浪を主外力として変動するけれども、その応答は様々な要因によって変化し、海面水位の変動もその要因の一つである。しかしながら、既存の地形変化モデルにおいて、潮汐変動、特に潮差の影響については、ほとんど考慮されていない。満月や新月の際に生じる大潮に月の近地点が同期するとking tideと呼ばれる大きな潮差が観測される。この大きな潮差に伴った高い海面水位は沿岸域の浸水リスクを高めることが知られている。なお、天体現象としてこの月の近地点の満月はスーパームーンとして一般に知られている。
 本論文では、これまで未知であった大潮に伴った地形変化とking tideに伴った地形変化を波崎海岸の25年間の長期観測データをもとに明らかにした。スペクトル解析から、波の遡上域の地形変化は満月・新月周期及び月の近地点周期で変動していることが明らかとなった。潮差との位相差から、潮差が大きくなった際に上部遡上域(平均海面よりも上部)において侵食が生じ、下部遡上域に堆積が生じていることが示され、土砂の沖方向への移動が明らかとなった。統計解析から、大潮やking tideの際には上部遡上域において有意な侵食が生じていることが明らかとなり、波浪に対する地形応答に影響を与えている可能性も示された。この潮差の変動に伴った地形変化プロセスは次のように考えられた。汀線付近の地下水位が海面変動に伴って変化するが、特に高い海面水位が記録された後の下げ潮の際に、海面水位の低下に対して地下水位の低下が遅いために、地下水位が高いままとなり、地下水の滲出によって戻り流れが強められ、侵食が生じやすくなると考えられる。
 今後の海岸管理においては、スーパームーンの際に高波浪の来襲が重なる場合には、大規模な侵食が起こる可能性があることから、事前の十分な注意が必要であると考えられる。また、本研究で明らかとなった海浜地形変化プロセスは、海面の変動によって生じる地形変化の一つであり、長期的な海面の変化によって生じる地形変化を明らかにする上で、重要なものであると考えられる。

キーワード:砂浜、地形変化、波の遡上域、潮差、大潮、近地点大潮、king tide

全文 REPORT60-1-1(PDF/3,900KB)