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2003年5月26日宮城県沖の地震現地調査速報第3報 (暫定版)
調査日:2003年5月27〜29日

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於:岩手県大船渡市 野々田埠頭

調査担当者 :港湾空港技術研究所:菅野構造振動研究室長,
小濱研究官・佐藤研究員(構造振動研究室)
国土技術政策総合研究所:狩野研究官(沿岸防災研究室)
調査本部担当:国土技術政策総合研究所:諸星沿岸防災研究室長
港湾空港技術研究所:野津主任研究官
一井主任研究官(地盤・構造部)
調査年月日 :2003年5月28日

この地震においては,大規模な液状化現象発生の報告はあまりされておらず,大船渡港野々田地区における液状化が最も規模の大きいものであった. しかし,ここでの液状化被害もそれほど重度のものではなく,船の着岸は可能であり,地震発生翌日から通常の木材整理作業が行われていた. また,その他の地区では液状化現象はほぼ見られず,被害も軽微であった. 大船渡港は年間406万トン(平成13年)の取扱い貨物量をほこる,岩手県の中枢港である. 取扱い貨物品目の主なものは,輸出:水産品1千トン,輸入:651千トン(石炭,石油製品,原木等),移出:2613トン(セメント,砂利等), 移入:795千トン(非金属鉱物等)である.

・大船渡港野々田地区
-13m, -7.5m岸壁,桟橋式,設計震度k=0.15
-13m岸壁:直杭5列 斜杭1列(陸側土留は鋼管矢板),延長260m
-7.5m岸壁:直杭3列(陸側土留はL型擁壁),延長270m
捨石緩傾斜土留め,裏埋土は山砂か建設残土の模様,昭和63年竣工,

野々田地区においては,この地震における唯一の比較的規模の大きな液状化現象が見られた. 墳砂の痕跡は桟橋土留直背後と岸壁法線より約60m陸側に下がった所に残っており,特に陸側部においては,粒径約5cm程度の大きな礫も残っていた. 地震時にここで作業をしていた人の話によると,地震の強い揺れが終わって少し経ってから埠頭用地のコンクリート板の打ち継ぎ目から水が出始め, だんだんとその勢いが強くなり,最大で約1mの高さまで泥水が吹き上がったそうである. また,桟橋上部工直背後の埠頭用地コンクリート舗装との境界部からも,じわじわと泥水がにじみ出ていたとの目撃情報もある. この部分では,粒径の大きな物はなく,粒径の細かいシルトが痕跡として残っていた.

野々田地区における埠頭用地コンクリート舗装の沈下量は約15〜20cmであり,不同沈下は生じていなかった. ただし,この沈下量には,地震前の5cm程度の経年変化による沈下も含まれていると考えられるため,地震による沈下は10〜15cm程度と考えられる. ここでの埋立土の層厚は最大で14m程度であり,これと比較すると沈下量は約1%程度であるため,液状化による沈下としては比較的小さいと考えられる. 本岸壁建設前の深浅図を基に旧海底面を岸壁断面図と合わせててみると,岸壁法線から60m陸側の地点で旧海底面は-11mとなっており,陸側へ行く程浅くなっている. 旧海底地盤はシルト質粘性土層(N=4程度)が,岸壁法線位置で-30mまで堆積しており,岸壁法線から50m陸側では-20mまで堆積している. さらにその下は,ゆるい砂層を数メートル挟んで,N値50以上の礫層となっている.

桟橋法線の出入りはほとんど無く,地震後においても船の着岸は可能であり,またコンクリート舗装の不同沈下も無かったため, 地震の翌日には埠頭用地内における荷役作業が行われていた.したがって,埋立地盤内において液状化は発生したものの, 桟橋本体などの構造に問題はほとんど無く岸壁および荷捌きに支障をきたすことは無かった.

桟橋本体直背後の段差はそれほど大きくなく,アスファルト等によるスリツケで補修は十分であると考えられる. 埠頭用地では,コンクリート打ち継ぎ目が最大で10cm弱開いたが,不同沈下は無く,コンクリート舗装に亀裂も生じなかった. -13m岸壁部の土留は鋼管矢板であることから,吸い出し等の発生は無いと判断でき,舗装コンクリート下部に空洞も無いものと考えられる. したがって,岸壁の機能を低下させるような被害はほとんど無く,軽微な被害であったと言える.

この地区における埋立土の性質等については現段階では不明であり,被害が軽微であった理由もはっきりとはしていない. 強震記録の最大加速度を考慮すると,液状化の程度がもっと大きいものと想定したが, 埋め立て材(建設当時の状況に詳しい人の話では,大船渡中学校の移転に伴う造成の際の山砂を埋立材として用いたとのことである) として液状化に強い材料が入っていること,現地の地形から陸側へ向かって急峻に旧海底盤面が浅くなっていることが考えられ, 液状化層厚が小さかったことなどにより沈下量が小さかったものと推察される. また,荷捌き用重機や木材の野積みのため,舗装の際に地盤改良を実施(現段階では未確認)したことも考えられ, 間接的に液状化抵抗を強化したことも考えられる.

液状化した砂の粒度分布調査については,噴砂は分級していて,その正確な分布を把握できないことが考えられるため, 地中部のサンプルを取得して調査を実施する必要があると考えている.

大船渡港内の他の施設に明瞭な液状化発生の痕跡が発見されていないことに関しては, 当該施設が大船渡港内の施設としては弱齢(昭和63年竣工)であり,今回の地震までに大きな地震を経験していないことも関係していると思われる. 今後は,埋立材料や地震波形のより詳細な調査を行い,これらの理由を明らかにする予定である.

更新記録

三陸南地震現場調査速報第1報(暫定版) (2003.5.30 21:00現在)

三陸南地震現場調査速報第2報(暫定版) (2003.6.3 19:00現在)
・第2報のトップページ:加筆
・被害調査資料 2.被害写真:写真1枚追加
・被害調査資料 5.原地盤ボーリング柱状図追加

三陸南地震現場調査速報第3報(暫定版) (2003.6.9 11:00現在)
・被害調査資料 3.港湾における強震記録:フーリエスペクトルに相馬追加、 軌跡5箇所追加
*地震名称を「2003年5月26日宮城県沖の地震」に変更