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2003年5月26日宮城県沖の地震現地調査速報第3報 (暫定版)
調査日:2003年5月27〜29日

3.港湾における強震記録

港湾における強震記録

1. 最大加速度分布

2003年5月16日18:24に宮城県沖で発生したマグニチュードM7.0の地震による各港湾の最大加速度を図-2および図-3に示す. 図-2は補正最大加速度,図-3はSMAC-B2相当最大加速度である. ここに補正最大加速度とは,原記録に対して,ゼロ線補正と計器特性を取り除くための補正を施した波形(補正加速度波形)の最大値, SMAC-B2相当最大加速度とは,SMAC-B2型強震計による記録と比較可能なように周波数成分を調整した波形(SMAC-B2相当加速度波形)の最大値のことである.
図-2を見ると,補正最大加速度は,最も大きい宮古-Gでは420Galと非常に大きな値を示している. 一方,図-3を見ると,SMAC-B2相当最大加速度の値は,一番大きかった宮古-Gでも222Galであり,それほど大きな数字ではない. 補正加速度波形からSMAC-B2相当加速度波形への換算は図-1に示すようなフィルターを作用させて行う. 従って,高周波成分を多く含む記録ほど,フィルターにより削除される部分が大きいことになる. 今回震源付近で得られた記録の補正最大加速度が大きかったにもかかわらず,SMAC-B2相当最大加速度がさほど大きくなかったのは, 記録に含まれる高周波成分の割合が大きかったためである.

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図-1.SMAC-B2相当フィルタ(振幅と位相)

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図-2.港湾地域強震観測の補正最大加速度分布

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図-3.港湾地域強震観測のSMAC-B2相当最大加速度分布

記録に含まれる高周波成分の割合が大きかった理由については,今後,詳しい解析が行われるものと考えられるが,現時点では次の理由が考えられる.

  1. 震源がスラブ内地震であったためストレスドロップが大きく高周波成分が効率的に発生した.1993年釧路沖地震はそのような地震の例であると考えられている(Ide and Takeo, 1996).
  2. 岩盤上に薄い表層地盤の載った地盤条件の場所が多く、地表近くまで地震波が減衰せずに到達した.
2. フーリエスペクトルの特徴

最大加速度が地表で100Galを越えた八戸,宮古,釜石,大船渡,仙台,相馬港の六港については,原記録のフーリエスペクトルを図-4に示す.どの地点でも,高周波数成分の比較的卓越した記録が得られている.震源に近い宮古,釜石,大船渡に共通の特徴として,0.2-0.3HzのピークがEW成分に共通して見られることが挙げられる.これは震源のメカニズムの影響であると考えられる.以下,各港湾で得られたフーリエスペクトルの特徴について述べる.

2.1 八戸港
八戸港の強震観測地点(八戸-G,八戸-GB)では,過去の地震の記録から,0.4Hz,0.9Hzといった周波数成分が卓越しやすいことがわかっている(深澤・他,2003).今回の記録(図-4)でも,やはり0.4Hzと0.9Hzの成分は地表(八戸-G)と地中(八戸-GB)で非常に卓越している.この卓越が地表と地中の双方で見られることは,0.4Hzと0.9Hzの成分が地中地震計の設置されている深度(GL-18.2m)よりも深い地盤の影響で生じていることを意味する.

2.2 宮古港
宮古港の強震観測地点(宮古-G)では,過去の地震の記録の解析から,5Hzの周波数成分が卓越しやすいことがわかっている(深澤・他,2003).今回の記録(図-4)でも,やはり5Hzの成分は非常に卓越している.前述のように,今回の地震は高周波数成分を比較的多く生成した地震であったと考えられており,生成された高周波数成分のうち5Hz付近の成分が宮古港の強震観測地点直下の表層地盤の影響でさらに増幅されたことが,420Galという大きな最大加速度を記録した理由であると考えられる.

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図-4.各港で得られたフーリエスペクトル

2.3 釜石港
釜石港の強震観測地点(釜石-G,釜石-GB)では,過去の地震の記録から,卓越しやすい周波数成分は特に見いだされていなかった(深澤・他,2003). 今回の記録では,地表の記録の10Hzのところにかなり顕著なピークが見られるが,かなり高周波側であるため,港湾構造物の応答を考える上では,あまり重要なピークではない.

2.4 大船渡港
大船渡港の強震観測地点(大船渡防地-G)では,過去の地震の記録の解析から,卓越しやすい周波数成分は特に見いだされていなかった(深澤・他,2003). 今回の記録(図-4)でも,他港のように,顕著な卓越周波数は認められないように思われる. なお,大船渡港の強震観測地点(大船渡防地-G)は被害を受けた係留施設からかなり離れているので,得られた記録と施設への入力地震動にはかなりの相違があった可能性が高い. 今回被害を受けた係留施設に比較的近い場所には過去に強震観測点(大船渡-S)があったが, そこでは,2Hz前後の周波数成分の非常に卓越した記録が得られることが多かった(深澤・他,2003).

2.5 仙台港
仙台港の強震観測地点(仙台-G,仙台-GB)では,過去の地震の記録から,8Hzの周波数成分が卓越しやすいことがわかっている(深澤・他,2003). 今回の記録(図-4)でも,やはり8Hzの成分は地表(仙台-G)で非常に卓越している. この卓越が地中で見られないことは,8Hzの成分が地中地震計の設置されている深度(GL-10.4m)よりも浅い地盤の影響で生じていることを意味する.

2.6 相馬港
相馬港の強震観測地点(相馬-G,相馬-GB)では,過去の地震の記録から,0.7Hzおよび6Hzの周波数成分が卓越しやすいことがわかっている(深澤・他,2003). 今回の記録(図-4)でも,やや高周波側によっているが,地表(相馬-G)で0.8Hzおよび7Hzの成分が卓越している. このうち0.8Hzの成分の卓越が地中でも見られることは,0.8Hzの成分が地中地震計の設置されている深度(GL-9.85m)よりも深い地盤の影響で生じていることを意味する.

3. 地震動の方向性

最大加速度が地表で100Galを越えた八戸,宮古,釜石,大船渡,仙台,相馬港の6港について,地震動の水平面内の軌跡を調べる. 図-5〜10に加速度・速度・変位の水平面内の軌跡を示す.加速度で見ると,どの港でも明瞭な方向性は見られない. これは,加速度波形では数Hz以上の高周波成分が支配的であり,高周波成分は散乱を受けやすいので, 震源特性に起因する方向性が現れにくいためであると解釈できる. 変位で見ると,宮古,釜石,大船渡の各港湾ではEW成分が卓越していることがわかる.これは震源のメカニズムの影響であると考えられる.

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図-5.八戸港の強震観測地点(八戸-G)における加速度・速度・変位の水平面内の軌跡

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図-6.宮古港の強震観測地点(宮古-G)における加速度・速度・変位の水平面内の軌跡

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図-7.宮古港の強震観測地点(宮古-G)における加速度・速度・変位の水平面内の軌跡

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図-8.大船渡港の強震観測地点(大船渡-G)における加速度・速度・変位の水平面内の軌跡

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図-9.仙台港の強震観測地点(仙台-G)における加速度・速度・変位の水平面内の軌跡

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図-10.相馬港の強震観測地点(相馬-G)における加速度・速度・変位の水平面内の軌跡

参考文献
Ide, S. and M. Takeo (1996), The dynamic rupture process of the 1993 Kushiro-oki earthquake, Journal of Geophysical Research, 101, 5661-5675.
深澤清尊・野津厚・佐藤陽子・菅野高弘(2003):港湾地域強震観測地点における地震動の卓越周期,海上・港湾・航空技術研究所資料 No.1057.