本震の震源断層に近いKiK-netの9地点にK-NETのMYG011を加えた10地点を対象地点として選定した(図-1).KiK-netの地点を主に選定したのは,表層地盤の非線形挙動の影響が相対的に小さいと考えられる地中記録を用いるためである.K-NETのMYG011は,震源断層に特に近いことに加え,硬質地盤上に設置されており表層地盤の非線形挙動の影響は小さいと考えられるため選定した.EW成分とNS成分の速度波形(0.2-2Hzの帯域通過フィルタを適用した波形),計20成分をターゲットとした.インバージョンに使用したのはS波を含む15秒間である.
仮定した断層面の位置を図-1に示す.断層面は,気象庁による本震の震源(北緯37.697°,東経141.622°,深さ57km)を含むように設定し,走向と傾斜は,F-netによる本震のモーメントテンソル解の二つの節面のうち,余震分布とより整合する東傾斜の面を選んだ(走向15°,傾斜42°).長さと幅については余震分布を参考に長さ40km,幅20kmとした.このうち深い側の幅16kmの部分に余震1,浅い側の幅4kmの部分に余震2を割り当てた.
インバージョンの手法としてはHartzell and Heaton(1983)によるマルチタイムウインドウ法を経験的グリーン関数に適用できるように改良した手法(野津,2007;Nozu and Irikura,2008)を用いた.この方法では,各々の小断層でのモーメントレート関数は小地震のモーメントレート関数とインパルス列との合積で表される.そのときのインパルス列の高さがインバージョンの未知数となる.破壊フロント(first-time-window triggering front)は,気象庁の破壊開始点から同心円状に拡大するものとした.その拡大速度については,1.2km/s~3.4km/sの範囲で0.2km/s刻みで変化させて結果を見たところ,2.0km/sのときに残差が最も小さくなったため,以下では2.0km/sの場合の結果を示す.その他,非負の最小自乗解を求めるためのサブルーチン(Lawson and Hanson,1974)を用い,すべりの時空間分布を滑らかにするための拘束条件を設けた.観測波と合成波を比較する際には記録のヘッダに記載された絶対時刻の情報を用いている.
インバージョンに用いた観測点における観測波(黒)と合成波(赤)の比較(0.2-2Hzの速度波形)を図-2に示す.図の横棒がインバージョンに使用した区間である.観測波と合成波は良く一致しており,暫定版よりも結果が改善されている.MYGH07(川崎),MYGH09(白石),MYGH10(山元)などは堆積層の影響により後続位相の発達しやすい地点であるが,これらの地点での波形も比較的良く説明できている. |