2018年6月18日大阪府北部の地震(MJ6.1)の震源モデル(第一版)
-デジタルデータ付き-

経験的グリーン関数を用いた波形インバージョンにより2018年6月18日大阪府北部の地震(MJ6.1)の破壊過程を推定した.対象周波数は0.2-2Hzとした.グリーン関数としては,本震波形と余震波形の位相特性の類似性をあらかじめ検討しておき,2018年6月19日4:53の余震1(MJ3.9)と2018年6月23日23:08の余震2(MJ4.0)の記録を併用した.前者は逆断層成分の卓越した地震,後者は横ずれ断層成分の卓越した地震である.これらの余震のパラメタを表-1に示す.震源を取り囲むように存在するK-NET,KiK-netの7地点におけるEW成分とNS成分の速度波形,計14成分をインバージョンに用いた(用いたのはすべて地表の記録).これらの観測点を図-1に示す.インバージョンには本震波形のS波を含む10秒間を用いた.

表-1 本震と余震のパラメタ
発生日時* 北緯* 東経* 深さ*
(km)
MJ*
M0**
(Nm)
走向**
(°)
傾斜**
(°)
すべり角**
(°)
本震
2018/06/18 7:58:34.1
34.843 135.622 13 6.1 2.32E+17 49 73 153
余震1
2018/06/19 4:53:10.2
34.843 135.625 13 3.9 2.99E+14 32 48 107
余震2
2018/06/23 23:08:45.7
34.832 135.622 11 4.0 7.39E+14 55 80 166
*気象庁による,**F-netによる(www.fnet.bosai.go.jp)
注)走向,傾斜,すべり角は二つの節面の一つを表示.


図-1 インバージョンで仮定した断層面と観測点の位置.
×は本震の破壊開始点(気象庁),
▲△はインバージョンに用いた観測点をそれぞれ示す.

逆断層と横ずれ断層の2枚の断層面を仮定した.前者については気象庁の初動解から走向356°,傾斜38°とした.後者の面は,気象庁のモーメントテンソル解を2枚の断層面で最もうまく説明できるように設定した.その結果,2枚目の面は走向52°,傾斜85°となった.設定した断層面の位置を図-1に示す.いずれの面も気象庁による震源を通るように設定した.1枚目の断層面には余震1を割り当て,2枚目の断層面には余震2を割り当てた.

インバージョンはHartzell and Heaton(1983)の方法に基づいている.逆断層についても横ずれ断層についても,10km×10kmの断層を10×10の小断層に分割し,それぞれの小断層でのモーメントレート関数は,余震のモーメントレート関数とインパルス列との合積で表されると仮定した.インパルス列は0.25秒間隔の12のインパルスからなるものとし,このインパルスの高さをインバージョンの未知数とした.破壊フロントは気象庁の震源から同心円状に速度3.0km/sで広がるものとした(2枚の断層は同時に破壊を開始するとした).基盤のS波速度は3.55km/sとした.インバージョンには非負の最小自乗解を求めるためのサブルーチン(Lawson and Hanson,1974)を用いた.また,すべりの時空間分布を滑らかにするための拘束条件を設けた.観測波と合成波を比較する際には記録のヘッダに記載された絶対時刻の情報を用いている.

図-2にインバージョンの結果として得られたすべり量分布を示す.本解析によると,逆断層では破壊開始点付近,横ずれ断層では破壊開始点のやや上方でもっともすべりが大きいとの結果が得られた.この結果から,まず逆断層ですべりが生じ,その影響の下で「上方」に存在していた横ずれ断層ですべりが生じたと解釈できる.図-3に最大すべり速度分布を示す.最大すべり速度分布はすべり量分布と似た傾向を示した.

 


図-2 すべり量分布(★は破壊開始点).左は逆断層,右は横ずれ断層.


図-3 最大すべり速度分布(★は破壊開始点).左は逆断層,右は横ずれ断層.

インバージョンに用いた観測点における観測波と合成波の比較を図-4に示す.これらの図において,横棒の部分がインバージョンに用いた部分である.観測波と合成波の一致は良好である.

図-2に示す震源モデルの小断層毎,時間ウインドウ毎のモーメント解放量(その要素に割り当てられた余震のモーメントに対する比)を参考のためテキストファイルに示す.

 

図-4 観測波と合成波の比較

謝辞:防災科学技術研究所のK-NET, KiK-netの強震記録,気象庁と防災科学技術研究所のモーメントテンソル解を利用しました.ここに記して謝意を表します.