2016/9/24
文責:野津
2017/11/9修正 |
2016年熊本地震の本震(M7.3)の特性化震源モデル |
1. 地震と解析の概要
この地震は2016年4月16日1時25分ごろ熊本県を震源として発生したMJ7.3の地震である.この地震の震源周辺で被害の発生した箇所での地震動を推定することなどを主な目的として,特性化震源モデルを作成した.
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図-1 震源断層と解析対象地点の位置関係.★は本震の震央(気象庁),□は小地震の震央(気象庁),▲▲は解析対象地点をそれぞれ示す.
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この地震の震源域周辺を概略的に図-1に示す.図-1に示す長方形は波形インバージョン(http://www.pari.go.jp/bsh/jbn-kzo/jbn-bsi/taisin/research_jpn/research_jpn_2016/jr_47.html)で用いられた断層面(長さ40km,幅20km,走向52°,傾斜角96°)を地表面に投影したものである.波形インバージョンの結果によると,気象庁発表の震源(破壊開始点,図-1の★印)よりも15kmほど北東側に特にすべりとすべり速度の大きい領域(本稿ではアスペリティ3と呼ぶ)が存在していたと考えられる.この地震の際,震源近傍の益城町(図-1のKMMH16など)では周期1秒程度の成分の著しく卓越した地震動が観測され,この地震動が甚大な被害をもたらしたと考えられる.しかしながら,破壊開始点と益城町および上記のアスペリティ3との位置関係から判断すると,益城町での地震動に対して最も支配的となったのがアスペリティ3の破壊であるとは考えられない.一方,震源断層周辺にはアスペリティ3の破壊の影響を受けた地点も多く存在していたと考えられる.すなわち,震源付近の地震動は震源断層との位置関係に応じて大きく異なっていたと考えられるため,強震記録の得られていない地点の地震動を事後推定するためには,震源断層との位置関係,とりわけアスペリティとの位置関係を考慮することが重要と考えられる.
そこで,震源周辺で強震記録の得られている地点での地震動を説明できるような特性化震源モデルを構築することをここでは試みた.着目した地点は,図-1に示す10地点と,図-1には示されていないが島原半島のNGS012(K-NET島原)である.波形の計算には修正経験的グリーン関数法(古和田他,1998;野津・菅野,2008;野津他,2009)を用いた.
2. サイト増幅特性
本検討の対象地域においては,既往の研究(野津・長尾,2005)でスペクトルインバージョンによるサイト増幅特性の評価が行われており,今回はこれを用いた.ただし,KMM006については,サイト増幅特性の評価が行われた時期の後に移設されているため,再評価を行ったサイト増幅特性(http://www.pari.go.jp/bsh/jbn-kzo/jbn-bsi/taisin/research_jpn/research_jpn_2016/jr_48.html)を用いた.また,KMMH16についても,新しいデータに基づいて再評価を行ったサイト増幅特性を用いた.ただし,いずれの場合も新旧のサイト増幅特性には決定的な違いは見られなかった.西原村小森(KMR)については,まず,4月14日22:07の地震(M5.8)に対してKMMH16とKMM005での観測スペクトルを説明できるようにオメガスクエアモデルに従う震源スペクトルを設定し(M0=6.0E+16Nm,fc=0.70Hz),これに基づいてKMRにおける地震基盤でのフーリエスペクトルを計算し,これによってKMRにおける観測記録のフーリエスペクトルを除することでサイト増幅特性を評価した.
3. 位相特性
位相特性の評価に用いた中小地震を表-1に示す.また選定理由を表-1に示している.基本的には,対象地点に対して最も影響を与えたと考えられるアスペリティ(例えばKMM005に対してはアスペリティ3)の近くで発生した中小地震を選択し,その位相特性が本震の位相特性と類似していることを確認した上で用いている.これらの中小地震の震源パラメタを本震の震源パラメタとともに表-2に示す.また,これらの中小地震の震央を本震の震央とともに図-1に示す. |
表-1 位相特性の評価に用いた中小地震
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中小地震 |
選定理由 |
KMMH16 |
2016/04/15 00:50 |
アスペリティ1,2の付近で発生した地震 |
西原村小森 |
2016/04/14 22:07 |
利用可能な記録の中から最も位相特性の良い記録を選択 |
KMM005 |
2016/04/15 15:27 |
アスペリティ3の付近で発生した地震 |
KMM004 |
2016/04/15 15:27 |
アスペリティ3の付近で発生した地震 |
KMMH06 |
2016/04/15 07:29 |
アスペリティ3の付近で発生した地震 |
KMM009 |
2016/04/15 15:27 |
アスペリティ3の付近で発生した地震 |
KMM011 |
2016/04/14 22:19 |
位相特性の良い記録 |
KMMH14 |
2016/04/15 00:50 |
アスペリティ1,2の付近で発生した地震 |
KMM006 |
2016/04/16 04:51 |
アスペリティ1,2の付近で発生した地震 |
KMM008 |
2016/04/15 00:50 |
アスペリティ1,2の付近で発生した地震 |
NGS012 |
2016/04/16 04:51 |
アスペリティ1,2の付近で発生した地震 |
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表-2 本震と解析に用いた中小地震のパラメタ
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時刻* |
北緯* |
東経* |
深さ*
(km) |
MJ* |
本震 |
2016/04/16 01:25 |
32.753 |
130.762 |
12.0 |
7.3 |
中小地震0 |
2016/04/14 22:07 |
32.775 |
130.848 |
8.0 |
5.8 |
中小地震1 |
2016/04/14 22:19 |
32.772 |
130.842 |
9.0 |
3.6 |
中小地震2 |
2016/04/15 00:50 |
32.737 |
130.758 |
13.0 |
4.2 |
中小地震3 |
2016/04/15 07:29 |
32.835 |
130.887 |
12.0 |
4.2 |
中小地震4 |
2016/04/15 15:27 |
32.840 |
130.882 |
12.0 |
4.2 |
中小地震5 |
2016/04/16 04:51 |
32.753 |
130.752 |
14.0 |
4.3 |
*気象庁による
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4. 特性化震源モデル
作成した特性化震源モデルを図-2に示す.アスペリティは,波形インバージョンの結果を参考に,破壊開始点よりも5kmほど北東側にアスペリティ1とアスペリティ2を,破壊開始点よりも15kmほど北東側にアスペリティ3をそれぞれ置いた.各アスペリティのパラメタを表-3に示す.各アスペリティの破壊は図-2に示すアスペリティ毎の破壊開始点(☆)から同心円状に拡大するものとした.ライズタイムについては,基本的にアスペリティの幅と破壊伝播速度から片岡他(2003)の式で算定される値としたが,アスペリティ3については,西原村小森での波形の再現性を考慮し,それよりも大きい値とした.なお,Qs値は既往の研究(加藤,2001)に基づきQs=104×f 0.63とした.この震源モデルを強震波形計算プログラムsgf51.exe(港空研資料No.1173)に入力できる形式にしたものをテキストファイルに示す. |
図-2 2016年熊本地震の本震の特性化震源モデル |
表-3 2016年熊本地震の本震の特性化震源モデルのパラメタ
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アスペリティ1 |
アスペリティ2 |
アスペリティ3 |
破壊開始点東経(deg) |
130.802 |
130.823 |
130.898 |
破壊開始点北緯(deg) |
32.783 |
32.797 |
32.841 |
破壊開始点深さ(km) |
15.0 |
15.0 |
11.0 |
長さ(km)×幅(km) |
1.5×1.5 |
3.0×3.0 |
4.0×5.0 |
M0(Nm) |
0.10E+18 |
0.25E+18 |
2.5E+18 |
相対破壊開始時刻(s) |
0.0 |
0.9 |
4.1 |
破壊伝播速度(km/s) |
2.8 |
2.8 |
2.8 |
ライズタイム(s) |
0.13 |
0.27 |
1.00 |
分割数 |
5×5×5 |
5×5×5 |
10×10×10 |
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5. 地震動の再現結果
地震動を計算するにあたり,多重非線形効果を考慮する方法(野津・盛川,2003;野津・菅野,2008)を用いた.その際必要となるパラメタであるν1とν2は表-4のように設定した.ν1はサイト増幅特性のピーク周波数と観測スペクトルのピーク周波数とのずれに基づいて設定し,ν2は地震動の振幅,特に後続位相の振幅が妥当なものとなるように設定した.図-3に各地点での速度波形(0.2-2Hz)の再現結果を示す.図-4に各地点でのフーリエスペクトル(水平2成分の自乗和平方根,バンド幅0.05HzのParzenウインドウを適用)の再現結果を示す.各地点における速度波形とフーリエスペクトルは概ね良好に再現されている. |
表-4 各地点で用いた非線形パラメタ
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ν1 |
ν2 |
備考 |
KMMH16 |
1.00 |
0.010 |
|
西原村小森 |
0.55 |
0.050 |
|
KMM005 |
- |
- |
|
KMM004 |
0.85 |
0.010 |
|
KMMH06 |
0.95 |
0.030 |
|
KMM009 |
0.75 |
0.010 |
アスペリティ1,2からの地震動のみに適用 |
KMM011 |
- |
- |
|
KMMH14 |
0.85 |
0.050 |
|
KMM006 |
1.00 |
0.010 |
|
KMM008 |
0.92 |
0.005 |
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NGS012 |
- |
- |
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謝辞
本研究では防災科学技術研究所,熊本県,気象庁による地震観測記録を用いました.記して謝意を表します.
参考文献
片岡正次郎・日下部毅明・村越潤・田村敬一(2003):想定地震に基づくレベル2地震動の設定手法に関する研究,国土技術政策総合研究所研究報告No.15.
加藤研一(2001):K-NET強震記録に基づく1997年鹿児島県北西部地震群の震源・伝播経路・地盤増幅特性評価,日本建築学会構造系論文集,Vol.543,pp.61~68.
古和田明・田居優・岩崎好規・入倉孝次郎(1998):経験的サイト増幅・位相特性を用いた水平動および上下動の強震動評価,日本建築学会構造系論文集,Vol.514,pp.97~104.
野津厚・菅野高弘(2008): 経験的サイト増幅・位相特性を考慮した強震動評価手法-因果性および多重非線形効果に着目した改良-, 港湾空港技術研究所資料 No.1173.
野津厚・長尾毅(2005):スペクトルインバージョンに基づく全国の港湾等の強震観測地点におけるサイト増幅特性,港湾空港技術研究所資料,No.1112.
野津厚・長尾毅・山田雅行(2009):経験的サイト増幅・位相特性を考慮した強震動評価手法の改良-因果性を満足する地震波の生成-,土木学会論文集A,Vol.65,pp.808-813.
野津厚・盛川仁(2003):表層地盤の多重非線形効果を考慮した経験的グリーン関数法,地震2,第55巻,pp.361-374.
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