インバージョンで仮定した断層面の位置を図-1に示す.断層面は,気象庁による本震の震源(北緯33.753°,東経130.762°,深さ12.0km)を含むように設定した.走向と傾斜は,暫定版ではF-netによる本震のメカニズム解(表-1)と一致するように46°と96°としていたが,本解析では,走向については地表地震断層の走向とより整合するように52°とした.長さは40km,幅は20kmとした.断層面を西側部分(長さ16km)と東側部分(長さ24km)に分け,それぞれ別の小地震を割り当てた(表-2).
インバージョンはHartzell and Heaton(1983)の方法に基づいている.40km×20kmの断層を20×10の小断層に分割し,それぞれの小断層でのモーメントレート関数は,小地震のモーメントレート関数とインパルス列との合積で表されると仮定した.インパルス列は0.25秒間隔の12のインパルスからなるものとし,このインパルスの高さをインバージョンの未知数とした.したがって破壊フロント通過後の3.0秒間だけすべると仮定したことになる.破壊フロントは,気象庁の破壊開始点から同心円状に拡大するものとした.その拡大速度については,Case1で様々に値を変えて解析を試みたところ,2.1km/sのときに最も残差が小さくなったため,以下の解析では2.1km/sに固定した.基盤のS波速度は3.55km/sとした.インバージョンには非負の最小自乗解を求めるためのサブルーチン(Lawson and Hanson,1974)を用いた.また,すべりの時空間分布を滑らかにするための拘束条件を設けた.観測波と合成波を比較する際には記録のヘッダに記載された絶対時刻の情報を用いている.
Case1について,インバージョンに用いた観測点(図-1の▲)における観測波(黒または灰色)と合成波(赤)の比較(0.2-2Hzの速度波形)を図-2に示す.これらの図において観測波を黒で示した部分がインバージョンに用いた区間(15秒間)である.多くの地点で観測波と合成波は良く一致している.KMMH16では,NS成分については20s付近のパルスも含めほぼ完全に再現されているが,EW成分は合成波の振幅が不足している.これは大地震と小地震との間のメカニズムの一致が完全ではないためと考えられる.同様にKMM011ではNS成分はほぼ完全に再現されているがEW成分は過小評価されている.KMM006ではEW成分の結果は良好であるがNS成分は過小評価されている.
Case2,3,4について,観測波(黒または灰色)と合成波(赤)の比較(0.2-2Hzの速度波形)を図-3,図-4,図-5に示す.Case1と同様に基本的には多くの地点で観測波と合成波は良く一致している.断層面の西側部分にEGF3を用いたCase2とCase4では,KMM011のEW成分の結果は改善されたが,NS成分の結果はかえって悪くなった.このことは,EGF1とEGF3のいずれも,本震の断層面の西側部分とメカニズムが完全には一致していないことを示すと考えられる.断層面の東側部分にEGF4を用いたCase3とCase4では,KMM004での結果は悪くなったが,KMMH06での結果は改善された.
観測波と合成波の一致度を示す指標として,式(1)で定義されるVRを求めたところ,VRの全観測点に対する平均値は,Case1,Case2,Case3,Case4のそれぞれに対し,62.4 %,65.8 %,61.4 %,63.9 %となった.
(1)
ここにs(t)は合成波,o(t)は観測波である.積分区間はインバージョンに用いた区間と一致させた.
図-6にインバージョンの結果として得られた最終すべり量の分布を示す(南東側から見た図を示している).★は破壊開始点を示す.すべり量の絶対値は,小地震の地震モーメントを利用して求めた.EGF1とEGF2についてはF-netのCMT解の値を用いた(EGF1が3.86×1015Nm,EGF2が1.92×1015Nm).EGF3については,F-netのCMT解は得られていないが,解析に用いた8地点においてEGF1に対するフーリエスペクトル比を求めたところ,その対数平均が低周波側でほぼ1となったため(図-7左),EGF3とEGF1の地震モーメントは等しいとした.同様に,EGF4については,F-netのCMT解は得られていないが,解析に用いた8地点においてEGF2に対するフーリエスペクトル比を求めたところ,その対数平均が低周波側でほぼ1となったため(図-7右),EGF4とEGF2の地震モーメントは等しいとした.図-6に示すように,小地震記録の選択が最終すべり量分布の推定結果に及ぼす影響は基本的に小さいと言える.いずれの結果においても,破壊開始点より15kmほど北東側に著しくすべり量の大きい箇所があり,その位置はケース間でほとんど変わらない.
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