流出油の漂流予測に関する研究

流出油の漂流予測に関する研究

 タンカーの海難事故や油井の事故による油流出は,従来よりも減少してきているとはいえ,依然世界各地において発生しています.2007年には韓国泰安沖においてHebei Spilit号とクレーン台船の衝突による油流出事故が発生し,約12,000klもの原油が流出しました.流出した油は韓国西海岸の広範囲に拡散し,大きな環境被害を及ぼしました.2010年にはメキシコ湾MC252での油井が爆発炎上し,油の流出量が約779,100klと世界最悪の油流出事故となりました.2012年にはニュージーランド沖コンテナ船Rena号事故により油流出が発生しました.

 我が国においても,1997年1月に日本海でタンカー船ナホトカ号の油流出事故がありました.油の流出量は約6,400klであり,日本海沿岸の広い範囲で被害がありました.また,1997年7月には東京湾においてダイヤモンドグレース号の油流出事故があり,約1,550klの油が流出しています.さらに2011年の東日本大震災では,各地で大きな被害があり,発電所,工場,船舶,自動車等からの油流出が多数発生しました.今後も日本近海において大規模油流出事故の危険性が潜んでいると考えられます.

 油流出災害が発生した際は初動体制の構築,防除計画の策定が行われ,その際に数値計算を用いた流出油の漂流シミュレーションが情報として用いられます.また,平時においては油回収船の防除訓練に油漂流想定として漂流シミュレーションを活用することや,季節別の海流,風の変化と流出油漂着リスクの関係の算定に数値計算を用いること等が期待されます.さらに,地震,津波等自然災害による港湾での油流出被害を予測するツールとして,高精度に予測できる数値計算の開発が望まれます.

 港湾空港技術研究所では,流出油の移流拡散を予測するための数値計算の開発を行っています.また,予測精度を向上させるため,移流拡散に関するモデルの開発及び評価を行っています.

油拡散を考慮した流出油の数値計算法の開発

 港湾空港技術研究所では海上に流出した油の漂流予測を行う,油拡散粒子モデルを開発しました.油拡散粒子モデルは海表面の油に関して,油膜自身の特性による油拡散(Spreading),流れの乱れによる渦拡散(Diffusion),海表面流れによる移流を計算できます.

  開発したモデルを用いて,2007年に発生した韓国泰安沖油流出事故と1997年に発生した東京湾油流出事故の2つの事例に関する再現計算を行いました.同じモデルを用いて計算を行い,再現計算結果と観測結果を比較し共に精度のよい結果が得られたことから,本計算モデルは汎用性・有用性が高いと考えています.

参考文献:

松崎義孝・藤田勇(2014):海水面における流出油の拡散・移流に関する数値計算法の開発と油流出事故の再現計算,土木学会論文集B2(海岸工学),Vol.70,No.1 ,pp.15-30

松崎義孝(2015):海上流出油の移流及び拡散に関する数値計算法の開発,港湾空港技術研究所資料,No.1300

 

海水面極近傍における水平乱流拡散に関する研究 

 海上に流出した油は,流れの乱れによって拡がります.流れの乱れによる油の拡散をシミュレーションするには,”拡がりやすさ”を意味する水平乱流拡散係数を決定する必要がありますけれども,従来はそれをどのように決定してよいか,よくわかっておりませんでした.

 一方で,染料や漂流物を用いた実海域における拡散の観測が多く行われており,水平乱流拡散係数の推定方法が提案されておりましたけれども,海表面極近傍を移動する会う場にそれらの推定方法を用いてよいか,よくわかっておりませんでした.

 そこで,港湾空港技術研究所では疑似油を用いた海水面極近傍における水平乱流拡散の測定実験を行い,水平乱流拡散係数の推定方法を検証しました.

参考文献:

 

Yoshitaka Matsuzaki and Isamu Fujita(2017): In situ estimates of horizontal turbulent diffusivity at the sea surface for oil transport simulation, Marine Pollution Bulletin, Vol. 117, pp. 34-40

松﨑義孝・藤田勇(2013):海水面極近傍における水平乱流拡散に関する研究,土木学会論文集B2(海岸工学) ,Vol.69,No.2, pp. 476-480

 

油膜自身の特性による油拡散に関する研究

 海上に流出した油は自然外力により乱流拡散やシアー拡散するほか,油と海水の密度差や表面張力といった,油膜自身の特性によって拡がります.これを「油膜自身の特性による油拡散」といいます.

 港湾空港技術研究所では,水槽実験により油膜自身の特性による油拡散に関する既往のモデルの適応性及びその拡がり係数の評価を行うとともに,新しい数値計算モデルを提案しています.また,提案したモデルは水槽実験の結果を再現できることを確認しています.

参考文献:

松崎義孝・藤田勇(2014):油膜自身の特性による油拡散に関する実験と数値計算への適応,土木学会論文集B2(海岸工学),Vol.70,No.2, pp.471-475

  • 独立行政法人 港湾空港技術研究所

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