海象情報研究グループ

地形影響下の海上風や高波を考慮した高潮の数値計算法の開発

Marine Information Group

1.研究の背景・目的

 高潮推算では一般に、台風の気圧分布を同心円で近似し、自由大気の風速に0。6~0。7の係数を乗じたものを海上風として与えています。さらに、平均海面など一定な天文潮位を与え、風速の関数で与えられる海面抵抗係数を用いて海面せん断応力を計算しています。他方、波浪推算でも、高潮や天文潮による水位変化や流れを無視しています。このような方法では、台風9918号による周防灘の高潮も波浪も再現できませんでした。
 その一因は海上風の過小評価にありました。この台風は東西に長い周防灘を北へ横切ったため、中心付近の気圧や前方で吹く風の場を正確に再現する必要があります。この風は周辺の陸上地形の影響も受けています。また、台風接近に伴う急速な波浪の発達は海面抵抗係数を通じて高潮に影響を及ぼし、この高潮と天文潮による水位変化や流れは逆に波浪へ影響を及ぼしているものと考えられます。
 したがって、気圧や風の場をより正確に推算し、波浪との相互作用を考慮して高潮を推算するモデルの開発が必要です。

2.研究の内容・成果

 西日本の気象官署で観測された気圧値を用いてこの台風の気圧分布を詳しく調べると、台風が九州へ上陸した後に前方の半径が後方に比べて大きくなっていたことが分かりました。このような気圧分布の歪みを考慮するために、図-1に示すような、最大風速半径roを中心から見た角度θの関数で表すモデルを導入し、その係数を最小自乗法によって求めました。さらに、eye wall周辺における自由大気の風から海上風への換算でsuper gradient windも考慮すると、観測風に近い推算風が得られました。
 次に、波浪推算と高潮推算を双方向に結合した推算モデルを構築しました。その波浪推算にはJanssenによる波齢に依存した海面抵抗係数が導入されたWAM-cycle4を用い、高潮推算で得られる非定常な水位と流れが考慮できるように改良しました。また、高潮推算には一般的な非線形長波モデルを用い、波浪推算で得られた海面抵抗係数や天文潮を考慮できるように改良しました。この推算モデルによって、周防灘の高潮も波浪も概ね再現できました。図-2は最大高潮偏差の分布を比較したものです。

研究の内容・成果の画像

3.関連文献

1) 高橋重雄・河合弘泰・高山知司(2000):1999年の台風18号による災害と今後の高潮・高波対策について-高潮対策施設の性能照査と性能設計、土木学会誌,Vol.85,pp.67-70.
2) Takahashi, S., H. Kawai and T. Takayama(2002):Storm surge disaster by typhoon No.9918 -performance design of coastal defense-, Proceeding of the Solutions to Coastal Disasters Conference 2002, ASCE, San Diego, pp.735-749.
3) Kawai, H., T. Hiraishi and A. D. Veltcheva(2002):Storm Surge Disaster in Western Japan in 1999, Book of abstracts, 9th International Symposium on Natural and Human-made Hazards (HAZARDS2002), pp.154-155.
4) Veltcheva, A.D. ・河合弘泰(2002):台風の気圧分布の歪みと超傾度風を考慮した高潮推算、海岸工学論文集、第49巻,pp.241-245.
5) Veltcheva, A. D. and H. Kawai(2002):Investigation of the typhoon pressure and wind field with application for storm surge estimation, Report of the Port and Airport Research Institute, vol.41, No.2, pp.23-44.
6) Veltcheva, A. D. and H. Kawai(2002):The problems and achievements in storm surge estimation, Proceeding of TECHNO-OCEAN 2002 (CD), 5p.
7) Veltcheva, A. D. and H. Kawai(2002):Effect of the distortion of typhoon pressure distribution on the storm surge estimation, Proceedings of the 28th International Conference on Coastal Engineering (ICCE2002), vol.1, pp.1203-1215.
8) 河合弘泰・川口浩二・橋本典明(2003):台風による内湾の波浪・高潮の双方向結合推算モデルの構築と台風9918号を例とした追算、海岸工学論文集、第50巻,pp.296-300.
9) 河合弘泰・川口浩二・橋本典明(2003):台風による内湾の波浪・高潮の双方向結合推算モデルの構築、港湾空港技術研究所報告、第42巻,第3号,pp.85-110.
10) Kawai, H., K. Kawaguchi, and N. Hashimoto(2004): Development of Storm Surge Model Coupled with Wave Model and Hindcasting of Storm Waves and Surges Caused by Typhoon 9918, ISOPE2004, No.2004-NM-09, 8p.
11) 河合弘泰(2004): 沿岸防災を目的とした高潮推算技術の高度化について、平成16年度港湾空港技術講演会。