沿岸水工研究領域 波浪研究グループ

ブシネスク勉強会

Wave Group

発足の経緯

 港湾近傍の波浪変形計算を精度よく検討するためには,波の回折,屈折,浅水変形,砕波などを同時に計算できるだけでなく,波の非線形性による波形の歪みもある程度推定できる計算モデルが必要である.一方,特に1990年代前半には,世界各国の研究者によって波の非線形性と分散性を考慮できる波動方程式が盛んに提案され,この頃には,分散特性が修正され,浅海域における波浪変形計算が可能なブシネスク方程式も登場した.
 このような研究状況をふまえ,運輸省港湾空港技術研究所水工部波浪研究室(当時)では,次世代の波浪変形計算モデルの開発に着手し,平成10年度までに,分散特性の補正項を含むMadsen型のブシネスク方程式を基礎とするブシネスクモデルを開発した.しかしながら,港湾・海岸における実務的な波浪変形計算に対してこれを広く適用するためには,入射境界や側方境界の与え方,砕波や遡上,部分反射の扱い方など,現地の波浪,地形条件に対応したさまざまな境界処理法に,開発・改良の余地が多く残されたままであった.
 そこで,平成11年1月には,「浅海域非線形波浪モデルの実務への適用性に関する検討会」を開催し,大学や民間の研究者や技術者とともに,ブシネスクモデルに関する研究・開発の現状や,実際の港湾における調査プロジェクトに適用した際の効果や課題等について,活発な議論が交された.
 また,これらの業務を引き継いだ独立行政法人港湾空港技術研究所海洋・水工部波浪研究室が,平成13年度に実施した「現地観測データ整理と計算結果の比較検討業務」では,学識経験者を擁した委員会ならびに幹事会を開催し,実際の計算事例を通じて,ブシネスクモデルの活用が期待される実務課題や今後克服すべき問題点等について,貴重な助言を頂戴した.さらに平成13年12月には,これらの成果の普及を目的とした講習会を開催した.このとき公開されたブシネスクモデルは,「NOWT-PARI Ver4.6b」(Nonlinear Wave Transformation model by PARI)と呼ばれている.
 さらに,平成14年度以降には,平成13年12月の講習会を継続・発展させた「ブシネスクモデルによる波浪変形計算に関する勉強会」を毎年1回のペースで開催している.
これまでに,港湾・海岸設計の実務において,複雑な海底地形を有する港湾や海岸周辺の波浪場の推定や,風波および長周期波に対する港内静穏度解析などの適用事例が着実に蓄積されている.また最近では,ブシネスクモデルと船体動揺解析モデル,あるいは3次元流体解析モデルと組み合わせて,長周期波に対する係留船舶の動揺や,護岸における越波飛沫の飛散状況の再現等が試みられるなど,学術的な応用例も多くみられる.
 一方,これらの適用例や応用例を通じて得られた成果や問題点は,本勉強会や学会等での発表の場を通じて開発者およびその他の利用者へフィードバックされ,更なるモデルの改良や開発に寄与している.これらは,プログラムコードのデバッグから新たな境界処理法の開発・改良まで多岐にわたり,本勉強会にて,適宜,ヴァージョンアップ版が公開されている.