2024年能登半島地震の再現地震動(七尾港9328番) |
2024/3/30
港空研 地震動研究G
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1. はじめに
七尾港9328番の再現地震動は,中小地震記録に見かけの震源時間関数を畳み込み等価線形解析1)で引き戻す方法で求めた.見かけの震源時間関数は七尾港の最寄りの防災科学技術研究所の強震観測点における記録を再現できるように求めた. |

図-1 解析イメージ |
七尾港の場合は,最寄りの防災科学技術研究所の強震観測点はISK007(K-NET七尾)であるため,ISK007における本震記録を再現できるように見かけの震源時間関数を求めた.中小地震記録は,2007年に大田岸壁で中小地震観測が行われていた期間の記録から選定することとし,本震記録との位相特性の類似性を考慮し,2007年4月6日21:42の地震(M4.7)の記録を用いた.本震の速度波形を∆t=0.05sでリサンプリングしたデータをvm (i),中小地震の速度波形を∆t=0.05sでリサンプリングしたデータをva (i)とし,見かけの震源時間関数w(i)は次式で求めた.NSは400とした.これは20秒分の震源時間関数を求めたことになる. |
(1)
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本震・中小地震の発震時刻と震源位置から本震波形におけるS波初動の到来時刻を求め,それに対応するようにi0を決めた.w(i)を求める際,本震波形の30秒~60秒までのデータを用いた.式(1)を解く際には非負の最小自乗解を求めるためのサブルーチン2)を用いた.
式(1)を解く際にEW成分とNS成分を同時にデータとして用いると誤差が生じるが,その誤差は合成波形の過小評価となって表れる.これは,地震動の事後推定を目的とする場合においては不都合であるから,1成分(この場合はEW成分)のみをデータとして用い,得られた見かけの震源時間関数を用いて他の1成分がある程度再現できることを後から確認した.
ISK007では本震時のピーク周波数が線形時の約0.7倍となっており,明らかに地盤の非線形挙動が生じていたため,多重非線形効果を表すパラメタν1とν2を用いた.ν1は0.7に固定し,ν2はNS成分の再現性が少しでも改善されるようにν2=0.02とした.
図-2の上段に見かけの震源時間関数の決定に用いた方の成分の再現性を,図-2の下段に見かけの震源時間関数の決定に用いなかった方の成分の再現性を示す.再現性はある程度良好である.また,図-3に示すようにフーリエスペクトルの再現性も良好である.時間領域の合積は周波数領域のかけ算であるため,図-1の関係を満たす見かけの震源時間関数を求めれば,フーリエスペクトルを良好に再現できることが期待できる.ただし,中小地震記録の水平2成分のフーリエスペクトルに大きな違いがある場合は注意を要する. |


図-2 ISK007における本震波形の再現性(緑が合成波形) |

図-3 ISK007におけるフーリエスペクトルの再現性(緑が合成波形) |

図-4 ISK007における見かけの震源時間関数 |


図-5 七尾港9328番における再現波(地表における速度波形) |
図-4に得られた見かけの震源時間関数を示す.これを用いて七尾港9328番における本震波形を推定した.その際,多重非線形効果を表すパラメタはISK007における波形の再現に用いたのと同じ値(ν1=0.70,ν2=0.02)を用いた.七尾港9328番における再現波(地表における速度波形)を図-5に示す.PSI値はN32W成分が44,E32N成分が64となり,ISK007における観測波よりやや小さくなった.ここで求まった地震動をL1地震動と同様の地盤モデルで工学的基盤に引き戻したものをエクセルファイルに収録した.なお,ひずみ依存曲線は北澤他3)のものを用いた.
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謝辞
防災科学技術研究所の強震記録を利用しました.記して謝意を表します. |
参考文献
1) 杉戸真太・合田尚義・増田民夫:土木学会論文集,No.493/II-27,pp.49-58,1994.
2) Lawson, C. L. and R. J. Hanson: Solving Least-Squares Problems, Prentice Hall, Chapter 23, 1971.
3) 北澤壮介・桧垣典弘・野田節男:港研資料No.396,1981. |