2021年2月13日福島県沖の地震(M7.3)の震源モデル(暫定版)
-デジタルデータ付き-

経験的グリーン関数を用いた波形インバージョンにより2021年2月13日福島県沖の地震(MJ7.3)の破壊過程を推定した.対象周波数は0.2-2Hzとした.グリーン関数としては,本震波形と余震波形の位相特性の類似性をあらかじめ検討しておき,2021年2月13日23:36の余震1(MJ4.6)の記録を用いた.余震1はF-netによるモーメントテンソル解が得られていない.そこで,F-netによるモーメントテンソル解が得られている2021年2月15日21:26の余震2(MJ5.5)の記録とのスペクトル比から余震1のモーメントを推定したところ,余震2の0.04倍で6.1×1015Nmと推定された.

本震の震源断層に近いKiK-netの11地点(図-1)を対象地点として選定した.沖合で発生した地震であるため内陸の地震ほどcoverageは良くない.表層地盤の非線形挙動の影響が相対的に小さいと考えられる地中での記録を使用した.EW成分とNS成分の速度波形(0.2-2Hzの帯域通過フィルタを適用した波形),計22成分をターゲットとした. インバージョンに使用したのはS波を含む10秒間である.

図-1 インバージョンで仮定した断層面と観測点の位置.■は本震の破壊開始点(気象庁),□は解析に用いた余震の震央(気象庁),はインバージョンに用いた観測点.

仮定した断層面の位置を図-1に示す.断層面は,気象庁による本震の震源(北緯37.728°,東経141.698°,深さ55km)を含むように設定し,走向と傾斜は,F-netによる本震のモーメントテンソル解の二つの節面のうち,余震分布とより整合する東傾斜の面を選んだ(走向25°,傾斜32°).長さと幅については余震分布を参考に長さ40km,幅40kmとした.

インバージョンの手法としてはHartzell and Heaton(1983)によるマルチタイムウインドウ法を経験的グリーン関数に適用できるように改良した手法(野津,2007;Nozu and Irikura,2008)を用いた.この方法では,各々の小断層でのモーメントレート関数は小地震のモーメントレート関数とインパルス列との合積で表される.そのときのインパルス列の高さがインバージョンの未知数となる.破壊フロント(first-time-window triggering front)は,気象庁の破壊開始点から同心円状に拡大するものとした.その拡大速度については,2.2km/s~3.6km/sの範囲で0.2km/s刻みで変化させて結果を見たところ,2.4km/sのときに残差が最も小さくなったため,以下では2.4km/sの場合の結果を示す.その他,非負の最小自乗解を求めるためのサブルーチン(Lawson and Hanson,1974)を用い,すべりの時空間分布を滑らかにするための拘束条件を設けた.観測波と合成波を比較する際には記録のヘッダに記載された絶対時刻の情報を用いている.

インバージョンに用いた観測点における観測波(黒)と合成波(赤)の比較(0.2-2Hzの速度波形)を図-2に示す.図の横棒がインバージョンに使用した区間である.観測波と合成波はMYGH06(田尻)のNS成分を除き良く一致している.FKSH20(浪江),MYGH10(山元),MYGH09(白石)などは堆積層の影響により後続位相の発達しやすい地点であるが,これらの地点での波形も比較的良く説明できている.


図-2 観測波と合成波の比較(黒が観測波)

図-3(左)にはインバージョンの結果として得られた最終すべり量の分布を示している(S波速度4.46km/s,密度3.2×103kg/m3ですべり量に換算).この結果を得るために上述の余震1のモーメントの推定結果を用いている.図に示すように,特にすべりの大きな領域は破壊開始点(★)よりもupdip側と南側に存在していたと推定される.図-3(右)には最大すべり速度の分布を示している.最大すべり速度も同様の領域で大きかったと推定される.


図-3 最終すべり量(左)と最大すべり速度(右)の分布(★は破壊開始点)

図-3に示す震源モデルの小断層毎,時間ウインドウ毎のモーメント解放量(その要素に割り当てられた余震のモーメントに対する比)をテキストファイルに示す.

謝辞:本研究では国立研究開発法人防災科学技術研究所のK-NET,KiK-netの強震記録,F-NETのMT解,気象庁の震源データを使用しています.ここに記して謝意を表します.