2014年11月22日長野県北部の地震(M6.7)の震源モデル(暫定版)
-デジタルデータ付き-

経験的グリーン関数を用いた波形インバージョンにより2014年11月22日長野県北部の地震(M6.7)の破壊過程を推定した.グリーン関数としては,本震波形と余震波形の位相特性の類似性を考慮し,表-1に示す11月23日12:46の余震の記録を用いた.震源周辺のK-NETとKiK-netの10地点を選び(図-1),そこでの0.2-1Hzの速度波形をインバージョンのターゲットとした.KiK-netでは地中の記録を用いた.

表-1 本震と余震のパラメタ

 

時刻* 北緯*
(°)
東経*
(°)
深さ*
(km)
MJ*
M0**
(Nm)
走向**
(°)
傾斜**
(°)
すべり角**
(°)
本震 2014/11/22 22:08:17.9 36.692 137.890 5.0 6.70 2.89E+18 22 51 62
余震 2014/11/23 12:46:36.8 36.742 137.882 5.0 4.4 4.07E+15 330 75 43
*気象庁,**F-net(www.fnet.bosai.jp)


図-1 インバージョンで仮定した断層面と観測点の位置.
■は本震の破壊開始点(気象庁),
□は解析に用いた余震の震央(気象庁),
▲はインバージョンに用いた観測点.

インバージョンで仮定した断層面の位置を図-1に示す.F-netのCMT解の2つの節面のうち余震分布とより調和的な東傾斜(走向22°,傾斜51°)の断層面1枚を仮定した.断層面は気象庁の震源(北緯36.692°,東経137.890°,深さ5km)を含むように設定した.断層面の大きさは余震分布(気象庁報道発表資料,平成26年11月27日15時00分)を参考に長さ20km,幅20kmとした. インバージョンはHartzell and Heaton(1983)の方法に基づいている.20km×20kmの断層を20×20の小断層に分割し,それぞれの小断層でのモーメントレート関数は,余震のモーメントレート関数とインパルス列との合積で表されると仮定した.インパルス列は0.25秒間隔の12つのインパルスからなるものとし,このインパルスの高さをインバージョンの未知数とした.破壊フロントは気象庁の震源から同心円状に速度2.8km/sで広がるものとした(2.4km/s~3.2km/sまで0.2km/s刻みで調べた結果,2.8km/sのとき最も残差が小さかった).基盤のS波速度は3.5km/sとした.インバージョンには非負の最小自乗解を求めるためのサブルーチン(Lawson and Hanson,1974)を用いた.また,すべりの時空間分布を滑らかにするための拘束条件を設けた.観測波と合成波を比較する際には記録のヘッダに記載された絶対時刻の情報を用いている.
 図-2(左)にインバージョンの結果として得られた最終すべり量の分布を示す(S波速度3.5km/s,密度2.7×103kg/m3ですべり量に換算).図-2(右)に最大すべり速度の分布を示す.これらの図に示すように,最もすべり量が大きかったのは破壊開始点(★)よりも南側の深部であるが,最もすべり速度が大きかったのは破壊開始点のやや北側であるとの結果が得られた.余震のモーメントとして表-1の値を用いると,図-2に示す最終すべり量分布はMW=6.5に相当する.最大すべり量は2.06mである.


図-2 最終すべり量の分布(★は破壊開始点)

インバージョンに用いた観測点における観測波と合成波の比較を図-3に示す.これらの図において,横棒の部分がインバージョンに用いた部分である.震源近傍のNGN005や北東側のNGN001,NGN002などでは波形の再現性がよいが,震源の南側のNGN006,NGNH34などでは再現性が十分でなく,改善の余地があると考えられる. 図-2に示す震源モデルの小断層毎,時間ウインドウ毎のモーメント解放量(その要素に割り当てられた余震のモーメントに対する比)をテキストファイルに示す.  謝辞:本研究では(独)防災科学技術研究所のK-NET,KiK-netの強震記録,F-netのCMT解,気象庁の震源データを使用しています.ここに記して謝意を表します.

図-3 観測波と合成波の比較(黒が観測波)