2009年8月11日駿河湾の地震(M6.5)の震源モデル(第二版)
-2枚の断層面を考慮した場合-

経験的グリーン関数を用いた波形インバージョンにより2009年8月11日駿河湾の地震(Mj6.5)の破壊過程を推定した.グリーン関数としては,本震波形と余震波形の群遅延時間の類似性を考慮し,表-1に示す8月13日12:42の余震の記録を用いた.震源を取り囲むように存在するK-NETとKiK-netの13地点を選び(図-1),そこでの0.2-2Hzの速度波形をインバージョンのターゲットとした.表層地盤の非線形挙動の影響を避けるため,K-NET観測点では表層20mの平均S波速度が300m/sを下回る観測点を避けるようにした.またKiK-net観測点では地中の記録を用いた.

 

表-1 本震と余震のパラメタ
発生日時*
北緯*
東経*
深さ*
(km)
Mj*
M0*
(Nm)
走向**
(°)
傾斜**
(°)
滑り角**
(°)
本震
2009/08/11 05:07:5.7
34.785
138.498
23.0
6.5
2.25E+18
307
47
119
余震
2009/08/13 12:42:48.5
34.813
138.487
19.0
4.3
6.85E+14
308
79
176
* 気象庁,** F-net(www.fnet.bosai.go.jp)
注)走向,傾斜,すべり角は二つの節面の一つを表示.

図1

図-1 インバージョンで仮定した断層面と観測点の位置.

■は本震の破壊開始点(気象庁),
□は解析に用いた余震の震央(気象庁),
ドットは本震発生後24時間の余震分布(気象庁),
▲はインバージョンに用いた観測点をそれぞれ示す.
×は東名高速盛土のり面崩落箇所

気象庁の震源位置にF-netのメカニズム解を置いてNS成分とEW成分の理論的なラディエーション係数を計算してみると,図-2に示すようになり,EW成分はラディエーションの節に近い観測点が多いことがわかる.ラディエーションの節に近い観測点では,本震および余震のメカニズムのわずかな変化に応じてラディエーション係数が鋭敏に変化し,解析が不安定になりやすい.そこで,ここではNS成分の速度波形を解析に用いることにした.解析には本震波形のS波を含む10秒間を用いた.

 

図-2 気象庁の震源位置にF-netのCMT解を置いた場合の理論的なラディエーション係数
図-2 気象庁の震源位置にF-netのCMT解を置いた場合の理論的なラディエーション係数.
(左)EW成分.(右)NS成分.

インバージョンで仮定した断層面の位置を図-1に示す.暫定版ではF-netのCMT解の2つの節面のうち気象庁の余震分布(図-1のドット)とより調和的な北東傾斜(走向307°,傾斜47°)の断層面1枚を仮定したが,今回は防災科学技術研究所がDD法により求めた詳細な余震分布(http://www.kyoshin.bosai.go.jp/kyoshin/topics/surugawan_20090811/inversion/)を参考に,暫定版で対象とした北東傾斜の断層面の南側に,もう一枚,南東傾斜の断層面(走向63°,傾斜59°)を仮定した.南東傾斜の断層面の走向と傾斜はHi-netのメカニズム解と整合させた.いずれの断層面も気象庁の震源(北緯34.785°,東経138.498°,深さ23km)を含むように設定してある.断層面の長さと幅はいずれも長さ15km,幅15kmとした.
インバージョンはHartzell and Heaton(1983)の方法に基づいている.15km×15kmの断層を15×15の小断層に分割し,それぞれの小断層でのモーメントレート関数は,余震のモーメントレート関数とインパルス列との合積で表されると仮定した.インパルス列は0.125秒間隔の8つのインパルスからなるものとし,このインパルスの高さをインバージョンの未知数とした.破壊フロントは気象庁の震源から同心円状に速度3.1km/sで広がるものとした.基盤のS波速度は中央防災会議の解析を参考に3.82km/sとした.インバージョンには非負の最小自乗解を求めるためのサブルーチン(Lawson and Hanson,1974)を用いた.また,すべりの時空間分布を滑らかにするための拘束条件を設けた.観測波と合成波を比較する際には記録のヘッダに記載された絶対時刻の情報を用いている.

図-3にインバージョンの結果として得られた最終すべり量の分布を示す(S波速度3.82km/s,密度2.8ton/m3ですべり量に換算).同図に示すように,南東傾斜の断層面の破壊開始点から見て南西側(a)と,北東傾斜の断層面の破壊開始点から見て北西側(b)に主なアスペリティを有する震源モデルが得られた.余震のモーメントとして表-1の値を用いると,図-3に示す本震の最終すべり量の分布はMW=6.4に相当する.最大すべり量は0.84mである.

 

図-3 最終すべり量の分布(★は破壊開始点)
図-3 最終すべり量の分布(★は破壊開始点)

インバージョンに用いた観測点における観測波と合成波の比較を図-4に示す.これらの図において,横棒の部分がインバージョンに用いた部分である.暫定版では,震源から見て北東の方角にあたるSZOH43(清水南),SZO012(蒲原),SZO008(沼津)における揺れ始めの位相がうまく再現されていなかったが,今回の解析ではこの点が改善されている.今回追加した南東傾斜の断層面の破壊は,forward directivityの影響により,震源の北東側の観測点に対して比較的影響を及ぼしやすい.そのため,南東傾斜の面を追加することにより,これらの観測点における波形の再現性が向上するのではないかと考えられる.上記の理由により,1枚の断層面を仮定した暫定版の結果よりも,2枚の断層面を仮定した今回の結果がより適切であると考えられる.
図-3に示す震源モデルの小断層毎,時間ウインドウ毎のモーメント解放量(その要素に割り当てられた余震のモーメントに対する比)をテキストファイルに示す.

謝辞:本研究では(独)防災科学技術研究所のK-NET,KiK-netの強震記録,Hi-netのメカニズム解,F-netのCMT解,気象庁の震源データを使用しています.ここに記して謝意を表します.

 

(グラフをクリックすると拡大します)


SZO004

SZO006

SZO008

SZO012

SZO014

SZO017

SZO018

SZO027

SZOH33

SZOH34

SZOH36

SZOH42

SZOH43
 

図-4 観測波と合成波の比較(黒が観測波)