2007年新潟県中越沖地震の震源モデル(第二版)
-デジタルデータ付き-
Earth, Planets and Space, Vol.60の震源モデル

経験的グリーン関数を用いた波形インバージョンにより2007年新潟県中越沖地震(Mj6.8)の破壊過程を推定した.対象周波数は0.2-1Hzとした.グリーン関数としては,本震波形と余震波形の群遅延時間の類似性を考慮し,表-1に示す3つの余震の記録を併用した.本震および3つの余震の記録がすべて得られており,かつ,それらのSN比が十分であるK-NETとKiK-netの9地点を選び,これにF-netの1地点を加え,計10地点におけるEW成分とNS成分の速度波形(0.2-1Hz),計19成分をインバージョンのターゲットとした(F-netのKZKでは記録の信頼性の関係でEW成分のみ使用).これらの観測点を図-1に示す.インバージョンには本震波形のS波を含む10秒間を用いた.

表-1 本震と余震のパラメタ
発生日時*
北緯*
東経*
深さ*
(km)
Mj*
M0*
(Nm)
走向**
(°)
傾斜**
(°)
滑り角**
(°)
本震
2007/07/16 10:13:22.5
37.557
138.608
17.0
6.8
9.30E+18
49
42
101
余震1
2007/07/16 21:08:2.2
37.508
138.628
20.0
4.4
5.21E+15
39
41
115
余震2
2007/07/18 16:53:5.2
37.442
138.615
23.0
4.3
4.08E+15
39
62
95
余震3
2007/07/18 20:02:55.9
37.472
138.493
21.0
3.7
3.97E+14
44
53
77
* 気象庁,** F-net(www.fnet.bosai.go.jp)
注)走向,傾斜,すべり角は二つの節面の一つを表示.

図1

図-1 インバージョンで仮定した断層面と観測点の位置

□は本震の震央(気象庁),■は余震の震央(気象庁),▲はインバージョンに用いた観測点.

インバージョンで仮定した断層面の位置を図-1に示す.この断層面は,気象庁の震源よりも5kmだけ浅い点(北緯37.557°,東経138.608°,深さ12km)を含むように設定し,走向は40°,傾斜は36°,長さ30km,幅24kmとした.断層面上におけるグリーン関数の割り当ては図-1の通りである.
インバージョンはHartzell and Heaton(1983)の方法に基づいている.30km×24kmの断層を20×16の小断層に分割し,それぞれの小断層でのモーメントレート関数は,余震のモーメントレート関数とインパルス列との合積で表されると仮定した.インパルス列は0.25秒間隔の12のインパルスからなるものとし,このインパルスの高さをインバージョンの未知数とした.破壊フロントは気象庁の震源から同心円状に速度2.9km/sで広がるものとした.基盤のS波速度は3.55km/sとした.インバージョンには非負の最小自乗解を求めるためのサブルーチン(Lawson and Hanson,1974)を用いた.また,すべりの時空間分布を滑らかにするための拘束条件を設けた.観測波と合成波を比較する際には記録のヘッダに記載された絶対時刻の情報を用いている.

  図-2にインバージョンの結果として得られた最終すべり量の分布を示す.同図に示すように,破壊開始点よりも20kmほど南西に最も顕著なアスペリティ(b)を有する震源モデルが得られた.余震のモーメントとして表-1の値を用いると,図-2に示す本震の最終すべり量の分布はMW=6.9に相当する.
図-2 最終すべり量の分布(★は破壊開始点)

図-2 最終すべり量の分布(★は破壊開始点)

インバージョンに用いた観測点における観測波と合成波の比較を図-3に示す.これらの図において,横棒の部分がインバージョンに用いた部分である.観測波と合成波の一致は比較的良好である.

図-2に示す震源モデルの小断層毎,時間ウインドウ毎のモーメント解放量(その要素に割り当てられた余震のモーメントに対する比)を参考のため テキストファイルに示す.

謝辞:本研究では(独)防災科学技術研究所のK-NET,KiK-net,F-netの強震記録,F-netのCMT解,気象庁の震源データを使用しています.ここに記して謝意を表します.

(グラフをクリックすると拡大します)

NIG005(NS)NIG005(EW)
NIG005(NS)                      NIG005(EW)

NIG017(NS)NIG017(EW)
NIG017(NS)                      NIG017(EW)

NIG018(NS)NIG018(EW)
NIG018(NS)                      NIG018(EW)

NIG019(NS)NIG019(EW)
NIG019(NS)                      NIG019(EW)

NIG020(NS)NIG020(EW)
NIG020(NS)                      NIG020(EW)

NIG025(NS)NIG025(EW)
NIG025(NS)                      NIG025(EW)

NIG028(NS)NIG028(EW)
NIG028(NS)                      NIG028(EW)

NIGH01(NS)NIGH01(EW)
NIGH01(NS)                      NIGH01(EW)

NIGH11(NS)NIGH11(NS)
NIGH11(NS)                      NIGH11(EW)

KZK(EW)
KZK(EW)

図-3 観測波と合成波の比較