2008年岩手・宮城内陸地震の震源モデル(暫定版)
-デジタルデータ付き-

 

経験的グリーン関数を用いた波形インバージョンにより2008年岩手・宮城内陸地震(Mj7.2)の破壊過程を推定した.対象周波数は0.2-1Hzとした.グリーン関数としては,本震波形と余震波形の群遅延時間の類似性を考慮し,表-1に示す2つの余震の記録を併用した.震源を取り囲むように存在するK-NETの7地点を選び,そこでのEW成分とNS成分の速度波形(0.2-1Hz),計14成分をインバージョンのターゲットとした.これらの観測点を図-1に示す.インバージョンには本震波形のS波を含む10秒間を用いた.

 

表-1 本震と余震のパラメタ

 

図-1 インバージョンで仮定した断層面と観測点の位置

図-1 インバージョンで仮定した断層面と観測点の位置
■は本震の破壊開始点(気象庁),
□は余震の震央(気象庁),
▲はインバージョンに用いた観測点をそれぞれ示す.

 

インバージョンで仮定した断層面の位置を図-1に示す.この断層面は,気象庁の震源(北緯39.028°,東経140.880°,深さ8km)を含むように設定し,F-netのCMT解を参考に,走向は209°,傾斜は51°,長さ36km,幅30kmとした.断層面上におけるグリーン関数の割り当ては図-1の通りである.
インバージョンはHartzell and Heaton(1983)の方法に基づいている.36km×30kmの断層を24×20の小断層に分割し,それぞれの小断層でのモーメントレート関数は,余震のモーメントレート関数とインパルス列との合積で表されると仮定した.インパルス列は0.25秒間隔の12のインパルスからなるものとし,このインパルスの高さをインバージョンの未知数とした.破壊フロントは気象庁の震源から同心円状に速度2.6km/sで広がるものとした.基盤のS波速度は3.55km/sとした.インバージョンには非負の最小自乗解を求めるためのサブルーチン(Lawson and Hanson,1974)を用いた.また,すべりの時空間分布を滑らかにするための拘束条件を設けた.観測波と合成波を比較する際には記録のヘッダに記載された絶対時刻の情報を用いている.

図-2にインバージョンの結果として得られた最終すべり量の分布を示す. 同図に示すように,破壊開始点付近(a)および破壊開始点より南側の浅部(b)にアスペリティを有する震源モデルが得られた.余震のモーメントとして表-1の値を用いると,図-2に示す本震の最終すべり量の分布はMW=6.7に相当する.

 

図-2 最終すべり量の分布(★は破壊開始点)

図-2 最終すべり量の分布(★は破壊開始点)

 

インバージョンに用いた観測点における観測波と合成波の比較を図-3に示す.これらの図において,横棒の部分がインバージョンに用いた部分である.観測波と合成波の一致は比較的良好である.

図-2に示す震源モデルの小断層毎,時間ウインドウ毎のモーメント解放量(その要素に割り当てられた余震のモーメントに対する比)を参考のため テキストファイルに示す.

謝辞:本研究では(独)防災科学技術研究所のK-NETの強震記録,F-NETのCMT解,気象庁の震源データを使用しています.ここに記して謝意を表します.

 

(グラフをクリックすると拡大します)

IWT010(EW)IWT010(NS)
IWT010(EW)                      IWT010(NS)

IWT011(EW)IWT011(NS)
IWT011(EW)                      IWT011(NS)

IWT012(EW)IWT012(NS)
IWT012(EW)                      IWT012(NS)

IWT015(EW)IWT015(NS)
IWT015(EW)                      IWT015(NS)

MYG004(EW)MYG004(NS)
MYG004(EW)                      MYG004(NS)

TYM002(NS)MYG005(NS)
MYG005(EW)                      MYG005(NS)

AKT023(EW)AKT023(NS)
AKT023(EW)                      AKT023(NS)
図-3 観測波と合成波の比較