2005年3月20日福岡県西方沖の地震の震源モデル(第三版)
- デジタルデータ付き -
『地震2』第59巻第3号に掲載の震源モデル

 経験的グリーン関数を用いた波形インバージョンにより2005年3月20日福岡県西方沖の地震(Mj7.0)の破壊過程を推定した.対象周波数は0.2-2Hzとした.グリーン関数としては,本震と余震のメカニズム(www.fnet.bosai.go.jp)の類似性の他,本震波形と余震波形の群遅延時間の類似性を考慮し,表-1に示す2つの余震の記録を併用した.用いるデータとしては,表層地盤の非線形挙動の影響を可能な限り避けるため,主にKiK-netの地中記録を用いることとし,本震,余震1,余震2の記録がすべて得られている福岡県・佐賀県・長崎県のKiK-netの観測点18点を選定した.これに,震源近傍での観測点数の不足を補うため,K-NETのFKO001(玄海),FKO006(福岡),FKO007(前原)の3地点を加えた.次に,断層面の北西側部分でのすべりの時空間分布に拘束を与えるため,震源域の北西側に位置する観測点を加えることが望ましいと考えたが,震源域の北西側に位置する壱岐・対馬のK-NET観測点では余震1,余震2とも記録が得られていない.そこで,ここでは対馬のIZH(厳原)におけるF-net観測点の速度型強震計の記録を解析に加えることにした.以上により,解析対象地点は計22地点となった(図-1).これらの地点におけるEW成分とNS成分の速度波形(0.2-2Hzの帯域通過フィルタを適用した波形),計44成分をインバージョンのターゲットとした.インバージョンには本震波形のS波を含む10秒間を用いた.

表-1 本震と余震のパラメタ
発生日時* 北緯* 東経* 深さ*
(km)
Mj* 走向**
(°)
傾斜**
(°)
滑り角**
(°)
本震
2005/03/20 10:53:40.3
33.739 130.176 9.2 7.0 306 87 17
余震1
2005/03/20 20:38:16.4
33.746 130.170 11.2 4.5 111 83 -5
余震2
2005/04/01 21:52:13.6
33.673 130.320 11.9 4.3 324 86 -5
(出典)*は気象庁,**はF-NET(www.fnet.bosai.go.jp)による
図-1 インバージョンで仮定した断層面と観測点の位置
図-1 インバージョンで仮定した断層面と観測点の位置.
★は本震の震央(気象庁),□は余震の震央(気象庁),▲はインバージョンに用いた観測点をそれぞれ示す.

 インバージョンで仮定した断層面の位置を図-1に示す.この断層面は,気象庁による本震の震源(北緯33.739°,東経130.176°,深さ9.2km)を含むように設定し,走向は306°,傾斜は87°,長さ24km,幅18kmとした.走向と傾斜はF-netによる本震のメカニズム解(ただし当初発表のもの,表-1)と一致するように定めた.断層面のうち,北西側の長さ18kmの部分の寄与を計算する際には余震1の波形を用い,南東側の長さ6kmの部分の寄与を計算する際には余震2の波形を用いた.
インバージョンはHartzell and Heaton(1983)の方法に基づいている.24km×18kmの断層を24×18の小断層に分割し,それぞれの小断層では破壊フロント通過後の3.0秒間に12回のすべりが許されるものとした.各々のすべりによるモーメント解放量が余震モーメントの何倍であるかを未知数としてインバージョンを行う.破壊フロントは,気象庁の震央の直下で深さ14kmの位置[Asano and Iwata (2006)]から同心円状に速度2.2km/sで広がるものとした.基盤のS波速度は3.55km/sとした.インバージョンには非負の最小自乗解を求めるためのサブルーチン(Lawson and Hanson,1974)を用いた.また,すべりの時空間分布を滑らかにするための拘束条件を設けた.観測波と合成波を比較する際には記録のヘッダに記載された絶対時刻の情報を用いている.
図-2にインバージョンの結果として得られた最終すべり量の分布を示す. 同図に示すように,破壊開始点よりも福岡市側(a)と対馬側(b)の双方アスペリティを有する震源モデルが得られた.余震のモーメントとしてF-netによる値(余震1が2.17E+15Nm,余震2が1.61E+15Nm)を用いると,図-2に示す本震の最終すべり量の分布はMw=6.7に相当する.図-2の円弧は,Tekanaka et al.(2006)により主破壊が始まったと推定されている時刻(初期破壊開始後3.6s後)における破壊フロントの位置を示している.この時刻において,破壊フロントはアスペリティ(a)の端部にさしかかっており,その接点は破壊開始点より4km程度南であり,Tekanaka et al.(2006)により推定されている水平位置とほぼ整合している.

図-2 最終すべり量の分布
図-2 最終すべり量の分布(★は破壊開始点)

 インバージョンに用いた観測点(図-1の▲)における観測波と合成波の比較(0.2-2Hzの速度波形)を図-3に示す.これらの図においてハッチングをした部分がインバージョンに用いた区間(10秒間)である.観測波と合成波の一致は,インバージョンに用いた区間ではある程度満足のいくものであり,また,その区間外でも,観測波と合成波の一致度が急激に低下する結果にはなっていない.後続位相も,多くの地点で良好に再現されている.観測波と合成波の一致度を示す指標として,式(1)で定義されるVRを図の右下に示している.

式(1)

 ここにs(t)は合成波,o(t)は観測波である.積分区間はインバージョンに用いた区間と一致させた.VRの全観測点に対する平均値は51.5%となった.
なお,図-2に示す震源モデルの小断層毎,時間ウインドウ毎のモーメント解放量(その要素に割り当てられた余震のモーメントに対する比)を参考のためテキストファイルに示す.

謝辞:本研究では防災科学技術研究所のK-NETおよびKIK-NETの強震記録,F-NETのメカニズム解を使用しています.記して謝意を表します.

(グラフをクリックすると拡大します)

fko001ewfko001ns

fko006ew fko006ns

fko007ew fko007ns

fkoh01ew fkoh01ns

fkoh03ew fkoh03ns

fkoh04ew fkoh04ns

fkoh05ewfkoh05ns

fkoh06ew fkoh06ns

fkoh08ew fkoh08ns

fkoh09ew fkoh09ns

fkoh10ew fkoh10ns

ngsh01ew ngsh01ns

ngsh03ew ngsh03ns

ngsh04ew ngsh04ns

ngsh05ew ngsh05ns

oith02ew oith02ns

oith11ew oith11ns

sagh01ewsagh01ns

sagh02ew sagh02ns

sagh04ew sagh04ns

sagh05ew sagh05ns

izhew izhns

図-3 観測波と合成波の比較