2000年鳥取県西部地震の震源モデル
-デジタルデータ付き-
★概要
経験的グリーン関数を用いたwaveform inversionにより2000年鳥取県西部地震の震源モデルを作成した (野津・盛川,2003). この震源モデルは,土木構造物の被害を説明する上で特に重要な0.1-2.0Hzの周波数帯域に着目し, 特に震源の北に位置する境港市の方位へのradiationが正確に表現されるように作成したものである.

★データ
経験的グリーン関数としては,2000年11月3日16時33分に発生した余震の記録を用いた. インバージョンには,K-netおよびKik-netの5つのサイト(TTRH02,TTRH04,OKYH14,SMN001,SMNH10) で得られた記録を用いた. 図1にこれらの観測点を示す. 余震波形のtransverse成分を周波数領域で積分し, 0.1-2.0Hzの帯域通過フィルタに通した速度波形をグリーン関数として用いた. また本震波形のtransverse成分に同様の処理を施して得た速度波形をインバージョンのターゲットとした. 本震波形の主要動部分を含む15秒間をインバージョンのターゲットとした.

★方法
インバージョンはHarzell and Heaton(1983)の方法に基づいている. 気象庁の震源(東経133度21.0分,北緯35度16.5分,深さ10.0km)を含む30km×12kmの断層面 (走向150°,傾斜85°)を仮定し,この断層面を30×12に分割して, それぞれの領域では破壊フロント通過後の2.4秒間に4回のすべりが許されるものとした. 各々のすべりによるモーメント解放量が余震モーメントの何倍であるかを未知数としてインバージョンを行った. インバージョンの自由度は30×12×4=1440である. 破壊フロントは,気象庁発表の震源時刻(2000年10月6日13時30分18.03秒)の2秒後から, 気象庁の震源を中心として同心円状に速度2.8km/sで広がるものとし,基盤のS波速度は3.5km/sとした. インバージョンには非負の最小自乗解を求めるためのサブルーチン(Lawson and Hanson, 1974)を用いた. また,すべりの時空間分布を滑らかにするための拘束条件を設けた. 本震と余震のメカニズムの違いは大きくないのでラディエーションパターンの補正は実施していない. 合成波と観測波を比較する際には記録のヘッダに記載された絶対時刻の情報を参照した.

★結果と考察
図2に, インバージョンの結果として得られた合成波と観測波の比較を示す. 両者の一致はおおむね良好である. 図3に最終すべり量の分布を示す. ここでのインバージョンでは, 直接には各々の小断層におけるモーメント解放量の余震モーメントに対する比が明らかになるだけであるが, ここでは余震の地震モーメントとしてF-netによる値(M0=5.23×1015Nm)を用い, 最終滑り量の分布を求めている. 同図によれば,破壊開始点(図3の★) の南のやや深い位置と破壊開始点の直上の浅い位置の二箇所に顕著なサブイベントのあることがわかる. ここで得られたモデルと,理論的なグリーン関数を用いて得られた岩田・関口(2001) のモデルとの間には類似性が見られる. 図4に1秒毎の滑り量の分布を示す. 破壊開始後0-3秒に一つ目のサブイベントで, 4-6秒に二つ目のサブイベントでモーメントが解放されていることがわかる. 各自由度毎のモーメント解放量の余震モーメントに対する比を テキストファイル に示しているので活用していただければ幸いである.

★表層地盤の非線形挙動を考慮した強震動シミュレーション
ここで得られた震源モデルを用い,表層地盤の非線形挙動を考慮した波形合成を行うことにより, 境港市内の観測点Sakaiminato-GとJMA(図1参照) で得られた本震波形を良好に再現することができる(野津・盛川,2003). まず,非線形性を全く考慮せずに合成を行い,その結果を観測波と比較すると, 図5に示すように波形後半の振幅が過大評価となり, また,波形後半の位相もあまり良好に再現されない. 次に,非線形パラメタ(野津・盛川,2003)を用いて合成を行う. 試行錯誤により非線形パラメタの値をν1=0.93,ν2=0.02としたところ, 図6に示すように観測波の振幅が良好に再現され, また波形後半の位相も改善された. ここで選択した非線形パラメタの値は,堆積層内のS波速度が平均的には線形時の93%であること, 堆積層内の減衰定数が平均的には線形時より0.02だけ大きいことに対応する. この結果は,既存の強震記録の再現を目指すpostdictionとしては成功していると思われるが, 同様の方法をpredictionに適用しようとすれば,非線形パラメタの設定方法の確立が不可欠である.

★謝辞
本研究ではK-net,Kik-netおよび気象庁の記録を使用しています.記して謝意を表します.

★参考文献
岩田知孝,関口春子(2001):2000年鳥取県西部地震の震源断層の実体,SEISMO,Vol.50,pp.5-7.

野津厚,盛川仁(2003):表層地盤の多重非線形効果を考慮した経験的グリーン関数法,地震2,Vol.55,pp.361-374.

Hartzell, S.H. and Heaton, T.H. (1983) : Inversion of Strong Ground Motion and Teleseismic Waveform Data for the Fault Rupture History of the 1979 Imperial Valley, California, Earthquake, Bull. Seism. Soc. Am., Vol.73, pp.1553-1583.