本研究では、各種防食工法の長期耐久性評価や補修技術の開発などを実施しています。本研究で得られた防食工法の耐久性、補修技術および現場での施工性に関する多くの知見は、港湾鋼構造物の防食設計や補修などの指針に役立てられています。この他に各種めっき鋼(フェンスやグレーチング)・金属溶射材やボルト・ナットなどの暴露試験も実施しております。
さらに本施設は、波浪や漂砂の観測施設でもあることから、電気防食の防食電位あるいは防食電流と波浪や漂砂の関係についても多くの知見を得ることができ、特に海底面近傍でのサンドエロージョンに対して、電気防食は有効であることを明らかにしました。
また、本試験において初めて海洋構造物の防食工法として用いた電着工法やチタン材料は、長期間、良好な防食効果が得られたため、現在では、様々な構造物にこれらの防食工法が適用されるようになってきました。
以下に、本研究で得られた研究成果の一例を示すとともに、対外的に発表した論文の一覧を表2に示します。
試験開始後10年目の調査では、一部の塗装系を除き被覆防食工法においては良好な防食状態が維持されていたことを確認しました。
しかしながら、試験開始数年後には、写真2に見られるような保護カバーの破損事例が数件認められ、波浪の厳しい環境ではある程度のカバー強度等が必要であるという知見を得ました。
また、防食層の防食効果をモニターするために各種の電気化学的測定や付着力試験などを実施しています。しかし、室内で確立された試験法は、現地における測定では、測定結果が気温および海象条件に大きく影響されることも明らかとなり、測定およびモニタリング技術等の確立に取り組んできました。
表1 暴露10年後における被覆防食の耐久性
防食工法 | 耐久性 | 備考 |
---|---|---|
塗装 | ○ | ブラケット部など膜厚が不足しやすいところにおいて部分的なワレや点錆など小さな異常が認められた。 |
有機ライニング | ◎ | 特に異常は認められない。 |
無機ライニング | ◎ | 試験開始後に保護カバーの破損事例あったが、カバーを改良することにより、その後に破損などは見られず、良い防食効果を維持している。 |
ペトロラタムライニング | ◎ |
写真1 絶縁抵抗試験状況
写真2 保護カバーの破損事例
海底面近傍では、砂による物理的な磨耗作用により、鋼材表面に生成した腐食生成物が剥落し、そのため鋼材の表面が活性化します。このような現象が繰り返されるので、腐食速度は、一般的な海水中の腐食に比べ、数倍大きくなることが確認されています。
図1は、無防食試験片と電気防食を適用した試験片の海底面近傍での腐食速度を示したものです。これによると電気防食を適用することにより腐食速度はほぼ0まで低減されていることが確認されました。
写真3に、試験終了後の無防食試験片と電気防食を適用した試験片の表面状況を示します。無防食試験片は大きな腐食により、形状が変っていますが、電気防食を適用した試験片はほとんど腐食しておりません。これにより、電気防食はサンドエロージョンに対して有効な防食工法であることが明らかとなりました。
図1 電気防食の有無による腐食速度の違い
(暴露1年後)
写真3 試験後の電気防食の有無による
表面状態の違い(9年間暴露後)
鋼材に電気防食を適用することにより、鋼材表面には石灰質皮膜(エレクトロコーティング)が生成されます。しかし、図2に示すように、サンドエロージョンの作用を受ける部位のエレクトロコーティングは、有義波高が大きくなるにつれて砂の作用により除去される度合いが大きくなります。その結果、図3に示すように、有義波高が100cmを超えると鋼材表面の電位が貴化し、流入する防食電流は通常の海水中よりも大きくなることが推測されます。現在では、どの程度の電流が必要であるかは明確にはなっていませんが、このような現象が起こることが分かりました。
図2 電気防食施工時における波高と鋼材表面変化の概念図
図3 有義波高と電位の関係
表2 対外発表一覧
表題 | 発表先および発表年 | 発表者 |
---|---|---|
鋼管杭の防食工法に関する現地試験(中間報告) | 港湾技術研究所資料No.675(1990) | 阿部、福手、山本 |
海中鉱物の電解被覆 | 電気化学および工業物理学 Vol.58 No.5(1990) | 熊田 |
波浪海域における鋼管杭の電着防食 | 第37回腐食防食討論会(1990) | 熊田、久保、宮崎、佐々木、 福手、阿部 |
陽極の埋没率が電位、電流に及ぼす影響 | 第39回腐食防食討論会 B- 105(1992) | 阿部、福手、清水、山本 |
外海に位置する鋼構造物の電気防食に及ぼす波浪の影響 | 第40回腐食防食討論会 D-107(1993) | 阿部、福手、清水、山本 |
鋼管杭の防食法の研究 (10年の継続研究の成果) |
Coastal Development No.22 【沿 岸センター機関紙】 (1995) | 木原 |
波浪海域におけるサンドエロ-ジョンに対する 電気防食の防食効果(その1) |
第42回腐食防食討論会 C-203(1995) | 阿部、福手、清水、山本 |
海洋環境における有機ライニングの耐久性 | 第18回鉄構塗装技術討論会(1995)防錆管理Vol.40 No.9 (1996) | 福手、阿部、木原、栗栖、 土居 |
波浪海域における定電位法による電気防食試験 |
第16回防錆技術発表大会 103(1996) | 阿部、福手、清水、山本 |
波浪海域におけるサンドエロ-ジョンに対する 電気防食の防食効果(その2) |
第43回腐食防食討論会 A-106(1996) | 阿部、福手、清水、山本 |
海洋環境条件における鋼構造物のための 厚膜防食塗装システムの防食効果と耐久性 |
第19回鉄構塗装技術討論会(1996) | 福手、阿部、杉 本、栗栖、飯田 |
過酷な海洋環境(波崎)における ペトロラタムライニング工法の耐久性 |
第19回鉄構塗装技術討論会(1996)防錆管理Vol.41 No.9 (1997) | 福手、阿部、上 園、木原、栗栖、飯田 |
海洋構造物のサンドエロ-ジョンに対する 腐食および防食調査 |
第17回防錆技術発表大会 113(1997) | 阿部、福手、上田、清水、山本 |
海洋構造物の電気防食効果に関する研究 | 第5回鋼構造シンポジウム 鋼構造年次論文報告集Vol.5(1997 | 阿部、西林、上田 |
波浪海域におけるサンドエロ-ジョンに対する 電気防食の防食効果 |
材料と環境 Vol.47 No.1 p.36 - 41(1998) | 阿部、上田、清水 |
波浪海域に位置する鋼構造物の 電気防食法に関する現地試験 |
港湾技術研究所資料No.921(1998) | 阿部、福手、清 水、山本、真鍋 |
海洋構造物の被覆防食工法に関する長期試験 | 土木学会論文集(1998) | 福手、阿部 他 |
防食鋼管杭の被覆絶縁抵抗に関する 現地測定手法について |
第19回防錆防食技術発表大会(1999) | 宮田、原田、西澤、阿部、濱田、真鍋 |
海洋構造物の被覆防食工法に関する長期試験 | 港湾技術研究所資料No.952(2000) | 阿部 |
サンドエロージョン防止と港湾防食 | 防錆・防食技術便覧(2000) | 阿部 |
海洋構造物への被覆防食工法および 電気防食法に関する長期現地試験 |
港湾学術交流会(2000) | 阿部 |
防食鋼管杭の長期暴露試験結果 ー坂崎海洋観測桟橋における現地試験ー |
基礎工2000年12月号(2000) | 阿部、濱田 |
The Protective Effectiveness of Cathodic Protection for Sand Erosion in Waves Sea |
International Offshore and Polar Engineering Conference (2002) | 濱田、阿部、上田 |
A Long-Term Field Test for Corrosion Control of Steel Pipe Piles in Marine Environment |
7th Workshop on the Ultra-steel(2003) |
平崎、濱田 |
ペトロラタムライニング工法の耐久性について (波崎における暴露試験体調査から) |
第23回防錆防食技術発表大会 (2003) | 大野、森嶌、椿、吉田、平崎、濱田 |
波浪海域における定電位法 による電気防食試験 (その2) |
第23回防錆防食技術発表大会(2003) | 小磯、森嶌、阿部、濱田 |