沿岸環境研究グループ

ブルーカーボン:海草や陸上由来の炭素は海底に貯留されやすい

Coastal and Estuarine Environment Group

 2015年4月17日更新

海草場では,海草と陸起源の炭素が効率的に貯留されている

港湾空港技術研究所 沿岸環境研究チームの渡辺謙太研究官と桑江朝比呂チームリーダーは、日本沿岸の海草場生態系*1で海草と陸起源の炭素が効率的に貯留されていることを世界で初めて定量化しました。現在、気候変動の緩和策として、海草場生態系による二酸化炭素(CO2)の貯留機能(ブルーカーボン*2)が注目され始めています。この研究成果は、炭素の効率的な貯留に海草場の作り出す有機物*3が重要な働きをしていることを示しています。

本研究成果は米国専門科学誌「Global Change Biology」に掲載されました(Journal Site)

*1 海草場:静穏で浅い砂泥性の場によく発達する。アマモ類などの海草類で構成された場のこと。岩礁において発達するコンブやワカメなどで構成された藻場とは区別される。
*2 ブルーカーボン:陸上の森林などに蓄積される炭素(グリーンカーボン)の対語で、海洋生態系に蓄積される炭素のこと。国連環境計画(UNEP)が2009年に新たに命名。
*3 有機物:植物が光合成によって取り込んだ二酸化炭素をもとに作り出す生物体を構成・組織する物質。

背景

現在、海草場や干潟、マングローブなどの浅海域生態系はその堆積物の中に非常に多くの炭素をストックする場として注目されるようになってきました。炭素は有機物の形でストックされているため、様々な起源を持つ有機物の動態は炭素の貯留機能に大きな影響を与えると考えられます。しかし、定量的な関係性はこれまで分かっていませんでした。

研究手法と成果

今回、港空研は、風蓮湖(北海道根室市)の海草場において採取された試料について、複合的な化学分析やデータ解析を実施することにより、日本の河口域や内湾に発達する海草場において、炭素が効率的に貯留される仕組みを解明しました(図-1)。

研究手法と成果の画像1

図-1 本研究で明らかになった海草場における様々な起源を持つ有機物の隔離・貯留過程。海草場の堆積物に沈降する有機物では植物プランクトンに由来するものが最も多いが、堆積物中には海草・陸上植物に由来するものが多くなる。つまり、海草・陸上植物由来の有機物が効率的に貯留されることを示している。

全国の沿岸浅海域の砂泥に生息しているアマモなどの海草で覆われた海草場は、これまで魚介類の産卵や仔稚魚の成長の場(海のゆりかご)、過剰な養分を取り除く海水浄化の場として、その重要性が知られていました。

近年、これらの機能に加えて、気候変動の原因とされている二酸化炭素の吸収・貯留についても注目されるようになってきました。海草場では吸収された炭素は有機物という形でその堆積物にストックされています。海草場には様々な起源を持つ有機物が存在しており、それぞれの動態が炭素の貯留機能に大きな影響を与えると考えられます。

我々の研究チームでは、「海草場にはどのような起源を持つ有機物が効率的に貯留されているか」という疑問を持ちました。そして、海草が密に生息している北海道の風蓮湖を対象とした研究を立ち上げ、現地観測、水底質の化学分析、データの統計解析を続けてきました(図-2)。

その結果、海草場においては、水中に豊富に生息し、分解されやすい植物プランクトンに比べて、海草や陸上植物に由来する有機物が効率的に貯留されていることを定量的に解明しました。また、海草や植物プランクトンの光合成による有機物生産が大気から二酸化炭素を吸収するのに重要であること、こうして生産された有機物は堆積物中だけでなく水中にも隔離される可能性を突き止めました。

研究手法と成果の画像2

研究手法と成果の画像3

研究手法と成果の画像4

研究手法と成果の画像5

図-2 風蓮湖(北海道根室市)のアマモ場と現地調査の様子

結果の意義と今後の展開

本研究成果は、海草場生態系の存在が沿岸浅海域における効率的な炭素の貯留・隔離において重要であることを示しています。また、海草の存在によって炭素の貯留効率が異なる可能性を示しており、今後の保全・再生における新たな指針とが期待されます。

論文情報

【論文名】 How organic carbon derived from multiple sources contributes to carbon sequestration processes in a shallow coastal system? (様々な起源を持つ有機炭素が浅海域生態系の炭素隔離過程にどのように寄与するか?)

【著者】 Kenta Watanabe (渡辺 謙太) and Tomohiro Kuwae (桑江 朝比呂)

【掲載誌】 Global Change Biology