沿岸環境研究グループ

ブルーカーボン:アマモは大気中の二酸化炭素を吸収している

Coastal and Estuarine Environment Group

沿岸域に生息するアマモは海中だけでなく大気中のCO2を吸収している

港湾空港技術研究所 沿岸環境研究チームの渡辺謙太研究官と桑江朝比呂チームリーダーは、日本沿岸の浅場に分布するアマモ(海草*1)が、海中に生息していながら大気中の二酸化炭素(CO2)を直接吸収していることを世界で初めて実証しました。現在、気候変動の緩和策として、ブルーカーボン*2(海洋生物によるCO2の貯留機能)が注目され始めています。この研究成果は、海草が大気中CO2濃度上昇の抑制に貢献しうることを示しています。

本研究成果は欧州専門科学誌「Biogeosciences」に掲載されました(Journal Site)。

*1 海草:静穏で浅い砂泥性の場によく発達する、アマモ類などの海生植物。岩礁において発達するコンブやワカメなどで構成された藻場とは区別される。

*2 ブルーカーボン:陸上の森林などに蓄積される炭素(グリーンカーボン)の対語で、海洋生態系に蓄積される炭素のこと。国連環境計画(UNEP)が2009年に新たに命名。

背景

海草場や干潟、マングローブなどの浅場生態系はその堆積物の中に多くの炭素を貯留する場として知られています。また、海草場では温室効果ガスであるCO2を吸収していることも明らかになってきました。これまではその仕組みについて、海草が光合成によって海中のCO2を取り込むことで、空気中から海中へCO2が溶け込む、認識されていました。

研究手法と成果

今回、港空研は、風蓮湖(北海道根室市)の海草場において採取された試料について、放射性炭素同位体分析を実施することにより、日本の河口域や内湾に生息する海草(アマモ)が大気中から直接CO2を吸収していることを実証しました(図-1)。

研究手法と成果の画像1

図-1 本研究で明らかになった海草による大気中の二酸化炭素(CO2)吸収。海草は水中の炭素を主に使っているという従来の考え方とは異なり、光合成に利用する炭素の約17%を大気中CO2から吸収していることが分かりました。アマモが大気に露出する際、アマモの葉上に薄い水の膜が残り、CO2のガス交換が促進されると考えられます。

全国の河口域や内湾の砂泥底に生息しているアマモなどの海草が発達した海草場は、これまで魚介類の成育の場(海のゆりかご)や海水浄化の場として、その有益な機能が広く知られてきました。近年、これらの機能に加えて、気候変動の原因物質とされているCO2の吸収・貯留機能(ブルーカーボン)についても注目されるようになってきました。

これまでアマモは海中に生息しているので、光合成の際に海中のCO2を利用するというのが通説でした。しかし我々の研究チームは、潮位が下がった際にアマモの葉が大気に露出していることに着目し(図-2)、「アマモが大気を直接吸収する仕組みがあるのではないか?そうだとするとはたしてどの程度、アマモは大気中のCO2を利用しているのか?」という疑問を持ちました。そして、海草が密に生息している北海道の風蓮湖を対象とした研究を立ち上げ、現地観測、化学分析、そして統計解析を実施しました(図-3)。

その結果、風蓮湖の浅い海に生息するアマモは、光合成に利用する炭素の内、平均17%を大気中CO2から吸収していることが分かりました(図-1)。水中のCO2を主に使っているという従来の考え方とは異なり、アマモが大気中のCO2を予想以上に吸収していることが実証されました。アマモが海面に顔を出す際、アマモの葉上に薄い水の膜が残り、CO2のガス交換が促進していると考えられます。

研究手法と成果の画像2


研究手法と成果の画像2

図-2 風蓮湖の海草(アマモ)場(←)とアマモが大気に露出している様子(→)。

研究手法と成果の画像4

研究手法と成果の画像5

図-3 現地調査の様子。

結果の意義と今後の展開

水底質の悪化や浅海域の消失により、地球全体では海草場の面積は急激に減少していると報告されています。本研究の成果は海草場の保全・再生がCO2濃度上昇の抑制に寄与することを示しており、気候変動緩和に貢献するものと考えられます。また、海草の存在が沿岸浅海域における効率的な炭素の隔離・貯留において重要であることを示しており、今後の保全・再生における新たに指針となることが期待されます。

論文情報

【論文名】 Radiocarbon isotopic evidence for assimilation of atmospheric CO2 by the seagrass Zostera marina (放射性炭素同位体を用いたアマモによる大気中二酸化炭素同化の検証)

【著者】 Kenta Watanabe (渡辺 謙太) and Tomohiro Kuwae (桑江 朝比呂)

【掲載誌】 Biogeosciences