沿岸土砂管理研究グループ

透水層埋設による海浜安定化工法

Coastal and Estuarine Sediment Dynamics Group

日本の海岸は、戦後、河川からの排出土砂が著しく減少し、さらに港湾の建設、埋立等によって沿岸漂砂の連続性が絶たれ、全国的に広がる慢性的海岸侵食問題を抱えるようになった。このため、突堤や離岸堤、護岸等の侵食対策工法の開発・施工によって自然の脅威から国土を守る努力がなされてきた。確かに、これらの海岸保全工法は防災という観点からは極めて有効であった。しかしながら、災害が問題とならない穏やかな海象時に、突堤、離岸堤、消波ブロック、天端の高い護岸などに阻まれて、人々は海に近づくことも、見ることさえもできない海岸が増えてきた。
  これに対して、近年、コンクリートで固められた海岸ではなく、容易にアクセスでき、しかも景観が良く潤いのある海浜が求められるようになってきた。
  波崎海洋研究施設における調査の結果、荒天時の海浜変形の実態・機構が明らかになってきた。つまり、海浜の高い位置まで遡上した海水が砂浜中に浸透して地下水位が上昇し、前浜からその海水が浸出するところで侵食が発生するということである。この機構を考慮すると、荒天時の海浜侵食防止の方法として、①浜への波の遡上を抑える、②浜への波の遡上は許すが、地下水位の上昇は抑える、の2つが考えられる。前者は、例えば、離岸堤や潜堤を沖に建設して入射する波のエネルギーを減殺することによって達成できる。これは従来の保全施設の考え方である。これに対して、後者を目的とした保全施設は今までに検討されたことがなかった。そこで、砂中に透水性の高い層を作って、浜に浸透した海水を速やかに沖に自然排水して地下水位の上昇および前浜からの海水浸出を抑制するというこれまでにない発想に基づく工法を開発した。この工法の海浜侵食防止効果を、波崎海洋研究施設における現地実験で検討し、本工法が有効であることを確認した。
  この工法は、すべての施設を砂中に埋設するために、人々の海へのアクセスに何ら障害がないという特徴があり、また海水が砂中に浸透・循環する過程で海水の浄化が促進されるという付加的な機能もある。
  なお、本工法は国土交通省関東地方整備局横浜港湾空港技術調査事務所、株式会社テトラ、日鐵建材工業株式会社および当所の共同研究によって開発したものである。

透水層埋設による海浜安定化工法の概要の画像

透水層の埋設状況の画像

波崎の現地実験において透水層は、長さ2m、幅1m、厚さ0.2mの箱型に成形したエキスパンドメタルの周囲を防砂シートで覆ったドレーユニットを岸沖方向に連結した構造とした。

台風時の浜への波の遡上、干出した透水層埋設範囲の画像

2枚の写真の撮影間隔は、約100sである。波が引いた後で、透水層を埋設した範囲では、表面が干上がっているのに対し、それ以外の場所では地下水が表面まで飽和状態になっている。

透水層埋設海浜と自然海浜の断面比較の画像

台風9424号来襲時の地形変化を示している。透水層埋設海浜では、自然海浜に比べて侵食が緩やかに軽減された。

台風9512号来襲直後の前浜地形、透水層埋設範囲に生じた堆積地形の画像

テキスト 台風9512号来襲によって前浜は侵食され一様になった。しかし、その1週間後には、透水層を中心に砂が堆積(2mの等高線が沖側に張り出している)している。

透水層埋設海浜上でくつろぐ人々 (山口県虹ヶ浜海岸)の画像

 山口県の虹ヶ浜海岸では、高潮防止のために後浜の天端を砂によって嵩上げし、この砂を護るために透水層埋設による海浜安定化工法が適用された.