沿岸土砂管理研究グループ

沖洲海岸におけるルイスハンミョウ幼虫の生息物理条件調査

Coastal and Estuarine Sediment Dynamics Group

論文概要

沖洲海岸におけるルイスハンミョウ幼虫の生息物理条件調査

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 徳島県沖洲海岸では、マリンピア沖洲第1期事業によって生じた人工島背後のトンボロ地形が予期せずして既存護岸と人工島との間の水路部分に後浜植生から静穏な干潟海浜へと続くルイスハンミョウの生息に適した環境を誕生させ、沿岸域に残された数少ない生息地の一つとなっている。
マリンピア沖洲第2期事業では、この生息地を保全した上で、生息地を模倣した新たな人工海浜を近隣に造り、ルイスハンミョウの自然移入や人為移入による定着を確認した後に、現存生息地の整備を行うことが計画されている。この計画の中で、現存するルイスハンミョウ生息地を模倣する技術、移入定着を確認する技術、が事業成功の鍵となるであろう。
そこで、ルイスハンミョウ生息適地が持つ地形的特徴、底質の構成、砂中の水分・温度などの物理環境を明らかにするため現地調査を行い、新たな人工海浜が満たすべき地形・底質環境の目標を設定し、ルイスハンミョウ人為移入開始時および定着確認調査時に重要となる環境条件調査項目の絞込みと調査方法、さらに、順応的管理による段階的整備を提案した。


沖洲海岸におけるルイスハンミョウ幼虫の生息物理条件調査の画像1

ルイスハンミョウは、コウチュウ目ハンミョウ科ハンミョウ属に属し、瀬戸内および九州沿岸の干潟が出現する海岸に生息している。
成虫は海浜部を移動しながら小さな昆虫などを捕食し、幼虫は海浜に巣坑を作り徘徊生物を待ち伏せて捕食する。
生息域としている干潟海岸の減少により絶滅の危機が増大している種(環境庁レッドリスト絶滅危惧Ⅱ類)となっている。
ルイスハンミョウの生息に適した条件(特に産卵~幼虫期の生息場所である砂浜干潟の巣坑)について現地調査を行った。


沖洲海岸におけるルイスハンミョウ幼虫の生息物理条件調査の画像2


現地調査は、徳島県沖洲海岸のマリンピア人工島背後に形成されたトンボロ地形周辺において、幼虫巣坑調査・断面地形測量・底質採取分析・温度含水比計測を春季(2004/4/30)、夏季(7/29)、秋季(10/2)、冬季(12/4)に実施した。
トンボロ地形は十分に発達し人工島背後まで到達しているため、小型船のための航路浚渫によって北側外海と通じているが、その幅は狭く外海の波からは隔離されている。また、南側は人工島連絡道路下に配置された狭い水路によって南側の海域と接続され、静穏な水域となっている。


沖洲海岸におけるルイスハンミョウ幼虫の生息物理条件調査の画像3

幼虫巣坑は、■■■■■に集中し、その地盤高は、概ね■■■■■であった。巣坑のある場所の地形の特徴として、■■■■■があり、■■■■■で入り組んだ平面形状であり、前面には■■■■■潮間帯があることがわかった。また、底質は粘土シルト分が10%以下の砂質土で有機分は少なく、表層付近の含水比が6~8%で地下水面に向かって緩やかに増加していること、含水には淡水が含まれていることがわかった。
一方、生息に適さない場所は、波の遡上による地形変化の激しい■■■■■海浜や潮位変動や波の遡上によって海水の影響を受けやすい場所である。

注)生息地が荒らされないように図と文章を加工しています


沖洲海岸におけるルイスハンミョウ幼虫の生息物理条件調査の画像4


冬の日の地温分布の変化は、表層で5℃~20℃あり、日没後表面温度は急激に低下する。表面から20cm深では比較的昼夜の温度変化は少ない。40cm以深では地下水中に没しており日変化はほとんどない。
温度と幼虫の活動についての資料はないが、一般的に甲虫の活動適切温度といわれている13℃~35℃の範囲を幼虫の生息可能温度とすると、地表面下20cmより深い場所が適地となる。しかしながら、20cm以深は潮位変化によって含水比が増減し、含水比が高すぎれば巣坑壁の形状を維持できなくなる。このことから、幼虫の生息域は鉛直方向にも極めて限られた深さに限定されている。


  調査項目 目標値
調査項目を絞り,高頻度で    
 
  • 水域の静穏
波浪が直接入射していない
 
  • 地盤高と海浜勾配
■■■■■の浜
環境条件調査
  • 底質
粘土シルト分6%以下の砂質
 
  • 海浜植生分布
汀線に近接して現存の植生群落
 
  • 飼料生物量
潮間帯上部で10-20個体/0.25㎡
生息数調査
  • 成虫
対象区域で40個体程度
 
  • 幼虫
対象区域で50巣坑 (5mm径)程度

沖洲海岸におけるルイスハンミョウ幼虫の生息物理条件調査の画像5

生物の生息に対して自然環境変動の影響は大きく、また、環境創造するための技術の蓄積は少ないため、上記条件みたす空間を海浜造成であらかじめ設計施工することは難しく、整備段階での生息条件モニタリング調査と適切な手直しが重要となる。そこで、海岸整備の実施に際して、事前調査結果に基づいて目標された環境条件が実際に整備されているかを長期的なモニタリングによって把握・評価し、より望ましい環境になるよう事業修正をおこなう順応的管理による段階的整備手法を用いて事業を行うよう提案した。
モニタリング調査によって環境条件や生息数が不十分な場合には、定着阻害因子を取り除き,自然定着を促すよう「急な地形勾配が生じた場合に離岸堤延伸・土砂追加投入を行う」等の措置方法の例を示した。