地盤研究領域 土質研究グループ

沿岸域の地盤調査技術

Soil Mechanics and Geo-Environment Group

ボーリングとサンプリング

サンプリングとは、設計定数等を求めるための試料を採取する行為のことで、「乱れの少ない試料」を採取して室内試験に供するために行います。従って、標準貫入試験の先端に付いている試料採取器も「サンプラー」などと称されてはいますが、土質判別以外の目的にこれを用いることは全く意味がありませんので注意が必要です。確認しておきたいことは、土が採取できれば良いというものではなく、土質試験に供する試料を採取するという認識が必要であるということです。

砂地盤については、乱さない試料の採取が難しいので、ここでは粘土地盤を対象とした場合を中心に説明をし、必要に応じて砂地盤の場合についても触れていくことにします。写真-3.1は、固定ピストン式シンウォールサンプラーを用いて軟弱粘土の乱さない試料を採取することを目的としたボーリング調査の様子を示しています。研究目的に行った特殊な調査のものですので、たくさんの作業者が写真に写っていますが、実際の調査では、ボーリングマシンのオペレータの人とその助手の2人がチームとなって作業に従事することが多いようです。やぐらが組まれ、その下にロータリー式ボーリングマシンが据えられています。

写真3.1 ボーリング調査の様子の画像

写真3.1 ボーリング調査の様子

柔らかい粘土のサンプリングでは、我が国の場合「固定ピストン式シンウォールサンプラー」が主に用いられていることは、「2.4 せん断」でも説明した通りです。シェルビーチューブサンプラーに代表されるようなオープンドライブ式のサンプラーとは違い、ピストンの存在が試料の乱れを小さくする重要な役割を果たしています。最近の研究によると、日本で用いられている固定ピストン式シンウォールサンプラーで採取された粘土試料の品質は、世界最高水準の高品質試料が採取できるといわれているシェルブルックサンプラー(カナダ・シェルブルック大学、 Lefebvre and Poulin,1979)やラヴァルサンプラー(カナダ・ラヴァル大学、 La Rochelle,1981)と同等程度の品質の試料が得られることがわかってきました。ただし、高品質の試料が得られるといっても、サンプリングチューブの先端付近や、ピストンの近くは乱れていることが多いため、採取した試料の長手方向の中央付近からやや先端寄りの部分の乱れが少なく、力学試験に供するのに適しているといえるでしょう。なお、やや硬い粘土の場合には、シンウォールチューブと粘土との摩擦でサンプラーが地盤中に挿せなくなってしまいます。このような場合には、先行するビットによって採取径よりやや太めに削りだして拘束を解放し、そこにサンプリングチューブを挿して試料を採取する方法がとられることもあります。これにはロータリー式二重管サンプラーが用いられ、デニソンサンプラーと呼ばれることもあります。緩い砂を乱さずに採取することは、凍結サンプラー以外の方法ではほとんど不可能といわざるを得ませんが、密な砂の場合には、ロータリー式三重管サンプラーを用いて試料採取することがあります。この方法は、粘土に用いるロータリー式二重管サンプラーのサンプリングチューブ内側にインナーチューブを有した構造になっていて、トリプルサンプラーとも呼ばれています。

図-3.1は、固定ピストン式シンウォールサンプラーを示しています。左図で、長さ100cmのステンレス(あるいは真鍮)製チューブ(引き抜き管で、刃先が付いている)をシンウォールサンプラーと称し、先端のピストンからはピストンロッドが繋がっていて、ピストンを固定するときにはこのピストンロッド(インナーロッドあるいはベビーロッドとも呼ばれます)をやぐら頂部等において地盤に対して固定します(中図)。サンプラーの上部にはサンプラーヘッドと呼ばれる部分が付いており、ボールコーンクランプという仕掛けが内蔵されています(右図)。このボールコーンクランプの役割は、サンプラーをボーリング孔内に下ろすときに、ボーリングロッド内にあるピストンロッドの自重でピストンが下方に抜け落ちてしまうのを防ぐことであり、ピストンロッドが下方に移動しそうになるとボールコーンクランプが締まってロッドが動かなくなる機構になっています。

図3.1 固定ピストン式シンウォールサンプラー(土質工学会:1982)の画像

図3.1 固定ピストン式シンウォールサンプラー(土質工学会:1982)

図-3.2は、固定ピストン式シンウォールサンプラーによるサンプリング方法を模式的に示しています。(a)はボーリング孔を削孔した状態を示しています。泥水を流しながら所定の深さまでロータリー式ボーリングマシンでボーリング孔を掘り、孔底のスライムを取り除きます。掘進時には、泥水圧が高すぎるとハイドロリックフラクチャーと呼ばれる亀裂が生じてしまったり、掘進速度が速すぎると孔底を乱してしまったりするため、慎重な作業が必要となります。なお、掘削に泥水を用いているのは、孔壁を保護するため(必要に応じてケーシングも用います)、ならびに掘削土を搬出するためです。(b)は孔底までサンプラーを下ろした後、ピストンロッドをやぐらの頂部に固定した状態を示しています。(c)はピストンを固定した状態でサンプリングロッドを押し下げることによりサンプラーを粘土中に押し込んでいる状態を示しています。このとき、孔底は固定ピストンで押さえられているため、サンプリングチューブが粘土中に押し込まれるときに周辺粘土の変形は拘束されていて、これにより粘土試料の変形による乱れを防止しています。サンプリングチューブの押し込みは連続的に素早く行うのが良いとされています。パイプレンチを掛けて人力で押し込む方法、チェーンブロックで押し込む方法、ボーリングマシンの油圧ジャッキで押し込む方法などがあります。最近では、ボーリングマシンの油圧ジャッキを用いることが多くなっていますが、通常用いられているボーリングマシンの油圧ジャッキのストロークは50cm程度しかなく、押し込みをいったん止めて持ち替えなければ十分な長さの試料を採取することができません。一般に、100cmのサンプラーに対し、80cm程度押し込みを行います。(d)はサンプラーを引き上げることにより採取した試料を回収している様子を示しています。根切りは引き上げのみによって行い、回転を加えるなどの追い切りは行ってはいけません。押し込んだサンプラーを孔底まで引き上がる段階では、著しい負圧が底部から作用するため、ゆっくりと引き上げなければなりません。このとき、ピストンの存在は試料の落下を防止するのに役立っています。

図3.2 固定ピストン式シンウォールサンプラーによるサンプリング方式の画像

図3.2 固定ピストン式シンウォールサンプラーによるサンプリング方式

引き上げたサンプラーから、空気穴を確保した上でピストンを取り外し、採取場所、日時、試料番号、採取深度、押し込み長に対する試料の採取率などをチューブに書き込み、上部および下部をパラフィン(パラフィンに3%程度の松ヤニを混合したもの)で3cm以上の厚さにシールをして密閉し、衝撃、温度などの取り扱いに注意して試験室に運搬し、恒温室(20℃とすることが多い)で保管します。写真-3.2は、図-3.2(b)と(c)の状態について写真を用いて説明したものです。なお、シンウォールチューブの内部の様子がわかるように、サンプラーを分解した状態での写真となっています。

「乱れの少ない試料」をサンプリングするのですが、どうしても何らかの乱れは生じてしまいます。サンプリング時の乱れは、「応力解放による乱れ」と「機械的な乱れ」とに大別されます。このうち、応力解放による乱れは、地中で土被り圧などの応力を受けていたものを試験室という大気圧の下に取り出すわけですから、不可避的なものであるといえます。一方、サンプリング時に与えてしまう変形あるいはクラックなどの機械的な乱れは、サンプリング方法を工夫することにより、ゼロにはできないまでも小さくすることが可能なものです。

機械的な乱れは「練り返し型の乱れ」と「クラック型の乱れ」とにさらに分類されます。練り返し型の乱れは、せん断変形を与えることにより生じる乱れで、変形しやすい浅い粘土や軟弱粘土の場合に生じやすく、クラック型の乱れは変形が生じると言うよりも硬く脆い深い粘土や硬い粘土の場合に生じやすいと言われています。

試料に機械的な乱れ、すなわち練り返し型の乱れやクラック型の乱れが生じたときに、一軸圧縮試験において観察される応力~ひずみ関係にどのように影響が現れるかを図-3.3に模式的に示します。

図3.3 練り返し型の乱れとクラック型の乱れの画像

図3.3 練り返し型の乱れとクラック型の乱れ

乱さない試料に対して得られる関係に対して、練り返し型の乱れの場合には、圧縮強度の低下とともに破壊ひずみが大きくなる傾向が見られますが、クラック型の乱れの場合には、圧縮強度は低下するものの破壊ひずみに関してはあまり変化が見られないという特徴があることが知られています。

原位置においては、土要素には鉛直方向に有効土被圧σ'v0、側方からは有効静止土圧σ'h0 = K0σ'v0が作用しています。サンプリングした試料を大気圧の下にある試験室に持ち込むと、全応力は0で等方応力状態になります。このとき、応力が解放されたことにより試料は膨潤しようとしますが、周囲が空気であるため、粘土のように間隙が小さい材料では表面にできたメニスカスが内部に入れずに飽和状態が保たれ、内部に負圧Δuが生じて釣り合った状態になります。この負圧Δuは、σ'v = σ'h = -Δuの等方的な有効応力となっています。なお、供試体を水没させるとメニスカスができずに膨潤して、負圧Δuは消散してしまいます。

図-3.4は、サンプリングから室内試験開始までの土要素の有効応力の変化を模式的に示したものです(Ladd and Lambe、 1963)。この図は、海外の粘土の特性を基に描いたものであるため、K0の値が0.6となっていますが、我が国の粘土の場合には、多くの場合K0は0.5程度になります。原位置にある土要素はAの応力状態にあります。もし、この状態の試料を採取できれば、全く乱れがない試料が得られるので、「理想試料」の状態であると称されています。しかし、実際には応力解放は不可避であることから、試料として採取することを考えると、実現不可能な状態であると言わざるを得ません。

図-3.4 サンプリングから室内試験開始までの有効応力径路(Ladd and Lambe, 1963に修正・加筆)の画像

図-3.4 サンプリングから室内試験開始までの有効応力径路(Ladd and Lambe, 1963に修正・加筆)

原位置でAにある応力状態は、ボーリング孔の掘進に伴う土被り圧の解放によりPを経てBに至り、サンプリングチューブを押し込み、試料を採取して引き上げることによりBからCに、試料をサンプリングチューブから押し出すことによりCからDに、保存、トリミングなどによりFに至ると説明されています。一軸圧縮試験はFの応力状態の供試体に対して行われますが、UU試験は拘束圧を作用させるので、有効応力が若干回復し、Gの応力状態になっているものと考えられます。

機械的な乱れを与えることなく、Aの異方的な応力状態を等方状態まで解放するとPの状態になります。この状態の試料のことを「完全試料」と称していますが、理想試料と同様に、試料としてはこれも実現不可能な状態です。奥村(1974)は、完全試料の有効応力s'pと、試験を行う試料の中に残留している有効応力s'rの比を攪乱比Rとして定義しました。

図3.5 強度低下と攪乱比の関係(奥村, 1974に修正・加筆)の画像

図3.5 強度低下と攪乱比の関係(奥村, 1974に修正・加筆)

攪乱比と強度低下の関係を示したものが図-3.5です。日本の粘土の代表として横浜港本牧粘土のデータが示されています。なお、粘土には地域性が強く表れるので、日本の粘土に対して常識的なことも世界には通用しないこともあることを示すため、ボストンブルー粘土のデータも参考として示されていますが、これに関する説明はここでは省略します。図は、一軸圧縮試験に用いられる供試体の残留有効応力(サクションとして計測する)を計測して求めた攪乱比Rと、完全試料の非排水せん断強度σupに対する一軸圧縮試験から得られたせん断強度(残留有効応力σ'rでのせん断強度)σurの比(強度比)との関係を示しています。

我が国の正規圧密状態にある自然堆積粘土の場合、攪乱比Rは3~6程度の範囲にあり、平均的には5程度であると言われています(田中ら、 1995)。図によると、攪乱比R=5は強度比0.7に対応しており、一般的な乱れが与えられた試料に対して行われた一軸圧縮試験から得られる非排水せん断強度は、もとの状態に対して3割程度小さな強度が得られているものと図から読みとれます。

写真3.2 固定ピストン式シンウォールサンプラーの仕組みの画像

写真3.2 固定ピストン式シンウォールサンプラーの仕組み