地盤研究領域 土質研究グループ

環境再生・創造に関連した地盤技術

Soil Mechanics and Geo-Environment Group

干潟の地盤工学的研究

干潟は多様な生物を育み、高い水質浄化能力があることから、豊かな沿岸環境のシンボルの一つとして位置付けられるが、その多くは、都市の発展とともに埋め立てられ消失した。今後も、地球温暖化に伴う海面上昇によって、干潟全体が消失してしまう可能性すらある。このため、保全・再生に向けた様々な環境創造事業が試みられている。しかしながら、生態系や水質・水理環境に着目したこれまでの干潟研究は、「干潟」という地盤が対象であるにも拘わらず地盤環境学的視点に欠けていた。地盤・構造部では、生態学・海岸工学との共同の下に、干潟地盤環境がどのようになっているか(理解)・どうなるのか(予測)を評価できる地盤環境学からのアプローチに取り組んでいる。

干潟地盤の堆積構造を効率的に把握・ゾーニングするために、盤洲干潟において表面波探査法を実施した結果を図-1に示す。地盤表面を歩いたとの感触(硬い・柔らかい)は、せん断波速度の高低とよく一致している。岸側の地盤表面は柔らかく、沖側では多段バー・トラフもうまく捉えられている。

図-1  小櫃川右岸で実施した表面波探査で得られたせん断波速度構造(横軸は岸側からの距離)

図-1  小櫃川右岸で実施した表面波探査で得られたせん断波速度構造(横軸は岸側からの距離)

干潟土中のサクション深さ分布と水分・塩分・温熱場の潮汐変動過程を図-2に示す。重要なことは、干潟表層の土中水分が1日2度の潮汐変動を通じて実質的に保持されている (θ= 0.44) 一方で、干出時に1kPa超のサクションが発達していることである。冠水時にはサクションは消失、静水圧分布を示す。さらに、サクションの深さ勾配より、干出時に水分の上方移動が生じたことがわかる。これは干出時の強い熱照射 (T=30~35°)による地表からの蒸発過程と密接にリンクしていると考えてよい。実際に、干潟表層の土中塩分濃度は、干出時に著しく上昇している(C = 4×104ppm)。

図-2  小櫃川左岸で実施した地盤環境動態観測結果の一例

図-2  小櫃川左岸で実施した地盤環境動態観測結果の一例

参考文献

  1. 渡部要一、佐々真志、 林 宏一 (2005): 干潟再生に向けた地盤環境評価~その1:砂質干潟の地盤構造~、 第40回地盤工学研究発表会
  2. 佐々真志、 渡部要一 (2005): 干潟再生に向けた地盤環境評価~その2:砂質干潟の土砂環境動態~、 第40回地盤工学研究発表会