浅海域における炭素隔離機能の評価へ向けた元素比・安定同位体比による有機物動態の解析

発行年月 2013年9月 港湾空港技術研究所 報告 052-03-01
執筆者 渡辺謙太,桑江朝比呂
所属 沿岸環境研究領域 沿岸環境研究チーム
要旨 海洋生態系によって隔離・貯留される炭素「ブルーカーボン」は人為起源炭素の主要なシンクとして注目されている.近年,ブルーカーボンとして隔離される炭素の78 %は河口域や藻場などの浅海域に堆積すると考えられており,浅海域生態系の重要性が主張されている.ブルーカーボンは生物の光合成や代謝によって合成される有機物として隔離される.環境中には系外から流入する異地性有機物や内部生産される自生性有機物など,様々な起源の有機物が混在する.これらの有機物は流入・生産速度や分解性の違いによって,環境中での炭素隔離時間が異なると考えられる.浅海域生態系の炭素隔離機能を評価するためには有機物の定量的な起源推定が必要であるが,その起源や構成成分については未解明な部分が多い.そこで本研究では複数の有機物源が想定される北海道の汽水ラグーンをモデル水域として,現地調査によって浅海域の有機物動態を解析した.元素比・安定同位体比を組み合わせた有機物混合モデルによって,懸濁態有機物(POM)の定量的な起源推定を行った.その結果,河口域-海草場においては,異地性POMと自生性POMが混在し,淡水と海水の混合によって構成比が変化した.河口部では陸域由来POM,ラグーン内では自生性植物プランクトン由来POMが大部分を占め,これらの堆積が炭素隔離プロセスとして重要であることが示唆された.また溶存態有機物(DOM)に関しては,光学的指標と元素比を用いて評価した.DOMについても複数の供給源が存在することが定性的に示された.沿岸域の基礎生産者(植物プランクトン・海草)は堆積物として埋没するPOMだけでなく,水中に長期間滞留しうるDOMも多く生産していることが示された.従来は海底に堆積した有機態炭素のみをブルーカーボンとして評価していたが,今後は溶存態有機炭素も炭素隔離プロセスとして議論に加える必要がある.また基礎生産は栄養塩量に制限されており,浅海域の栄養塩動態と炭素隔離機能は密接に関係していることが示唆された.本研究では様々な生物化学的パラメーターを複合的に解析することで,浅海域生態系の有する炭素隔離プロセスとそれに影響する環境要因を明示することができた.
全文 vol052-no03-01.pdf(PDF/2.8MB)

発行年一覧を表示/検索

条件を入力して検索する

ページの先頭へ戻る