2011/8/17 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
2008年岩手・宮城内陸地震(M7.2)の特性化震源モデル |
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1. 地震と解析の概要この地震は2008年6月14日8時43分ごろ岩手県内陸南部を震源として発生したMJ7.2の地震である.この地震により岩手県奥州市と宮城県栗原市の一部では震度6強を記録した.この地震では荒砥沢ダム上流で大規模な地すべりが発生するなど(例えば山科他,2009)各地で地すべりが発生し,河道閉塞箇所も多く見られるなど,地盤に関連する災害が多く発生した. 岩手・宮城内陸地震の震源域周辺を概略的に図-1に示す.この地震は北西側に傾斜した逆断層の地震である.図-1に示す長方形は波形インバージョン(野津,2010)で用いられた断層面(長さ36km,幅30km,走向209°,傾斜角51°)を地表面に投影したものである.波形インバージョンの結果によると,気象庁発表の震源(破壊開始点,図-1の×印)よりも12kmほど南の浅部に特にすべりの大きい領域が存在していたと考えられる.この地震の際,震源近傍のIWTH25(KiK-net一関西)では短周期成分の著しく大きい地震動が観測された.しかしながら,新潟県中越地震の際の川口町の波形,あるいは新潟県中越沖地震の際の柏崎刈羽原子力発電所の波形のような,やや短周期帯域で著しく振幅の大きい地震動は,この地震では観測されていない.以下の解析では,断層直上,およびその周辺の8地点(位置を図-1に示す)での波形(図-2)に着目し,特性化震源モデルの作成を行う.波形の計算には経験的サイト増幅・位相特性を考慮した強震動評価手法を用いる(古和田他,1998;野津・菅野,2008;野津他,2009). |
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図-1 2008年岩手・宮城内陸地震の震源断層(長方形)と 対象観測点および本震・余震の震央 (数字は表-1の余震番号に対応) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
表-1 2008年岩手・宮城内陸地震の本震・余震の震源パラメタ
*気象庁より **F-netより |
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図-2 2008年岩手・宮城内陸地震による複数地点における速度波形の再現 (0.2-2Hzの速度波形,黒が観測) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
2. サイト増幅特性本検討の対象地域においても,既往の研究(野津・長尾,2005)でスペクトルインバージョンによるサイト増幅特性の評価が行われており,今回はこれらを用いた(図-3).MYG005(K-NET鳴子)はカルデラ内に位置する観測点であり,低周波側で著しく大きいサイト増幅特性となっている.このことに対応し,MYG005で観測された本震の波形は,低周波側でのスペクトルレベルが著しく大きいものとなっている(図-4). |
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3. 位相特性岩手・宮城内陸地震の余震記録の中から最適なものを選択するため,本震記録と余震記録のフーリエ位相の類似性を検討し(野津,2005),類似性の高い余震記録を選択した.その結果,多くの地点では,2008年6月16日23:14に発生したM5.3の余震(余震2と呼ぶ)の記録を用いることが適当であると判断された.しかしながら,断層面の南東側に位置するIWTH25,IWTH26,IWT010,MYG004は2008年6月14日23:42に発生したM4.9の余震(余震1と呼ぶ)の記録がより適切であると判断されたので,その位相特性を用いた.これらの余震の震源パラメタを本震の震源パラメタとともに表-1に示す.また,これらの余震の震央を本震の震央とともに図-1に示す. |
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図-3 2008年岩手・宮城内陸地震の強震波形計算に用いたサイト増幅特性 |
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図-4 2008年岩手・宮城内陸地震による複数地点におけるフーリエスペクトルの再現 (黒が観測) |
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4. 特性化震源モデル作成した特性化震源モデルを図-5に示す.アスペリティは,波形インバージョンの結果(野津,2010)を参考に,比較的すべりの大きい部分である領域aにアスペリティ3を,領域bにアスペリティ2を設定したが,これらのみでは震源近傍のIWTH25等での波形を過小評価する結果となった.そこで,破壊開始点付近に比較的すべり量の小さいアスペリティ1を導入したところ,IWTH25等を含め,各地点での波形を一定の精度で再現することができた.アスペリティ1は,南側のアスペリティ2に対して,地震モーメントにして14%程度,すべり量にして37%程度である.各アスペリティのパラメタを表-2に示す.破壊の順序としては,最初にアスペリティ1が破壊を開始し,1.7秒遅れてアスペリティ3が,2.8秒遅れて南側のアスペリティ2が破壊を開始するものとした.各アスペリティの破壊は図-5に示すアスペリティ毎の破壊開始点(☆)から同心円状に拡大するものとした.ライズタイムについてはアスペリティの幅と破壊伝播速度から片岡他(2003)の式で算定される値とした.なお,Qs値は既往の研究(佐藤・巽,2002)に基づきQs=166×f 0.76とした.この震源モデルを強震波形計算プログラムsgf51.exe(港空研資料No.1173)に入力できる形式にしたものをテキストファイルに示す. |
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図-5 2008年岩手・宮城内陸地震の特性化震源モデル. 背後のコンターは波形インバージョンで得られたすべり量分布(野津,2010). ★は全体の破壊開始点,☆は各アスペリティの破壊開始点. |
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表-2 2008年岩手・宮城内陸地震の特性化震源モデルのパラメタ
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5. 地震動の再現結果図-2に各地点での速度波形(0.2-2Hz)の再現結果を示す.各地点における速度波形は概ね良好に再現されている.従って,ここに示した特性化震源モデルは岩手・宮城内陸地震によるやや短周期地震動を再現するのに適したモデルであると言える.図-4に各地点でのフーリエスペクトルの再現結果を示す.各地点におけるフーリエスペクトルは,IWTH25において高周波側のスペクトルレベルが大きいこと,MYG005において低周波側のスペクトルレベルが大きいことを含め,概ね良好に再現されている.なお,ここでは,IWTH26,MYG004,MYG005,IWT015における波形を計算するために,多重非線形効果を考慮する方法(野津・盛川,2003;野津・菅野,2008)を用いている.その際必要となるパラメタであるν1とν2についてはいずれの地点もν1=0.9,ν2=0.01とした. |
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謝辞 本研究では(独)防災科学技術研究所のK-NET,KiK-netの強震記録,F-netのCMT解,気象庁の震源データ,東京電力(株)の強震記録を使用しています.ここに記して謝意を表します.
参考文献 片岡正次郎・日下部毅明・村越潤・田村敬一(2003):想定地震に基づくレベル2地震動の設定手法に関する研究,国土技術政策総合研究所研究報告No.15. 古和田明・田居優・岩崎好規・入倉孝次郎(1998):経験的サイト増幅・位相特性を用いた水平動および上下動の強震動評価,日本建築学会構造系論文集,Vol.514,pp.97~104. 佐藤智美・巽誉樹(2002):全国の強震記録に基づく内陸地震と海溝性地震の震源・伝播・サイト特性,日本建築学会構造系論文集,No.556,pp.15-24. 野津厚(2005):2004年新潟県中越地震の震源モデル-経験的グリーン関数を用いた波形インバージョン-,地震2,第58巻,pp.329-343. 野津厚(2010):波形インバージョンにより推定された最近のわが国における内陸地殻内地震の震源過程,港湾空港技術研究所報告,第49巻,第3号,pp.111-155. 野津厚・菅野高弘(2008): 経験的サイト増幅・位相特性を考慮した強震動評価手法-因果性および多重非線形効果に着目した改良-, 港湾空港技術研究所資料 No.1173. 野津厚・長尾毅(2005):スペクトルインバージョンに基づく全国の港湾等の強震観測地点におけるサイト増幅特性,港湾空港技術研究所資料,No.1112. 野津厚・長尾毅・山田雅行(2009):経験的サイト増幅・位相特性を考慮した強震動評価手法の改良-因果性を満足する地震波の生成-,土木学会論文集A,Vol.65,pp.808-813. 野津厚・盛川仁(2003):表層地盤の多重非線形効果を考慮した経験的グリーン関数法,地震2,第55巻,pp.361-374. 山科真一,山崎勉,橋本純,笠井史宏,吾妻智浩,渋谷研一(2009):岩手・宮城内陸地震で発生した荒砥沢地すべり,日本地すべり学会誌,45,pp.42-47. |