2003年十勝沖地震(M8.0)の特性化震源モデル

2003年9月26日4時50分ごろ十勝沖を震源とするM8.0の大地震が発生した.この地震は気象庁により「2003年十勝沖地震」と命名された.図-1は野津他(2007)による2003年十勝沖地震の特性化震源モデルである.図-1に示すようにこの震源モデルは1~3の3つのアスペリティからなっており,アスペリティの面積はそれぞれ72km2,48km2,16km2,アスペリティの地震モーメントはそれぞれ4.2E+19Nm,2.1E+19Nm,2.4E+18Nmである.これらのアスペリティは波形インバージョン結果(Nozu and Irikura, 2008)ですべり量の大きいところに置かれている.破壊フロントは図-1の星印の位置(東経143.925°,北緯42.039°,深さ30.1km)から速度2.7km/sで同心円状に拡大するとしている.この震源モデルを強震波形計算プログラムsgf51.exe(港空研資料No.1173)に入力できる形式にしたものをテキストファイルに示す.

fig1
図-1 震源モデル

この震源モデル,および強震波形計算プログラムsgf51.exeを用いて,図-1の3地点(TKCH07,TKCH03,HKD095)における速度波形(0.2-1Hz)を計算した結果を図-2に示す(野津他,2009).なお,計算に際し,伝播経路のQ値としては佐藤・巽(2002)による東日本海溝型地震のQ値(Q=114×f 0.92)を用いている.サイト増幅特性は野津・長尾(2005)のものを用いている.対象サイトの位相特性を考慮するための観測記録としては,対象サイトへの入射角が対象地震と類似した中小地震を選ぶことが望ましいが,対象地震の震源域は大きいため,ここでは対象地点に対して最も影響の大きいアスペリティ1の近くで発生している2003年9月26日7:20の余震(M5.2)の記録を用いた(余震の震央を図-1に示す).

図-2より,各地点の速度波形(0.2-1Hz)の再現性は概ね良好であると判断される.特にTKCH07で観測されたインパルス状の波形,HKD095で観測されたサイクル数の多い継続時間の長い波形など,地点毎の特徴が良く捉えられている.これは,上記計算プログラムにおいて,堆積層が地震動のフーリエ振幅に及ぼす影響だけでなく,フーリエ位相に及ぼす影響についても考慮しているためであると考えられる.

fig2
図-2 TKCH07,TKCH03,HKD095の3地点における
速度波形の計算結果(野津他,2009)

参考文献

佐藤智美・巽誉樹(2002):全国の強震記録に基づく内陸地震と海溝性地震の震源・伝播・サイト特性,日本建築学会構造系論文集,第556号,pp.15-24.

野津厚, 長尾毅(2005):スペクトルインバージョンに基づく全国の港湾等の強震観測地点におけるサイト増幅特性,港湾空港技術研究所資料,No.1112.

野津厚,長尾毅,山田雅行(2007):スペクトルインバージョンに基づく全国の強震観測地点におけるサイト増幅特性とこれを利用した強震動評価事例,日本地震工学会論文集,第7巻,第2号,pp.215-234.

Nozu, A. and K. Irikura (2008): Strong-motion generation areas of a great subduction-zone earthquake: waveform inversion with empirical Green's functions for the 2003 Tokachi-oki earthquake, Bulletin of the Seismological Society of America, Vol.98, No.1, pp.180-197.

野津厚,長尾毅,山田雅行(2009):経験的サイト増幅・位相特性を考慮した強震動評価手法の改良-因果性を満足する地震波の生成-,土木学会論文集A,第65巻,第3号,pp.808-813.

謝辞

防災科学技術研究所のK-NET,KiK-netの強震記録を利用しています.記して謝意を表します.