2011/8/16
2000年鳥取県西部地震(M7.3)の特性化震源モデル

1. 地震と解析の概要

この地震は2000年10月6日13時30分ごろ鳥取県西部を震源として発生したMJ7.3の地震である.この地震では震源に近い鳥取県日野町と震源からやや離れた鳥取県境港市で震度6強を観測した.境港市では建物(森他,2001)や港湾施設(井合他,2001)に大きな被害が生じた.

鳥取県西部地震の震源域周辺を概略的に図-1に示す.この地震は鉛直に近い断層面を持った横ずれ断層の地震である.図-1に示す長方形は波形インバージョン(野津・盛川,2003)で用いられた断層面(長さ30km,幅12km,走向150°,傾斜角85°)を地表面に投影したものである.波形インバージョンの結果によると,気象庁発表の震源(破壊開始点,図-1の×印)の南東側および上方に主なアスペリティが存在している.そして,南東側のアスペリティが南東に向かって壊れることにより,南東側の延長上に位置する岡山県の観測点(OKY005,OKYH14,OKY004,OKYH08)では幅の狭いパルス状の地震波が観測されている(図-2).震源周辺(OKYH09,SMNH01など)ではパルスの幅はより広くなっているが,断層面の北西側の延長上にあるSMN001ではパルスの幅は再び狭くなっている(図-2).また震源直上のTTRH02では幅が狭く,かつ,振幅の非常に大きいパルス波が観測されている(図-2).ここではこれらの特徴を再現することを念頭に特性化震源モデルの作成を行う.対象観測点は図-1に示す12の観測点とした.これらの観測点は震源を取り囲むように分布しており,震源モデルの妥当性を議論するのに適した観測点配置であると考えられる.波形の計算には経験的サイト増幅・位相特性を考慮した強震動評価手法を用いる(古和田他,1998;野津・菅野,2008;野津他,2009).

図-1
図-1 2000年鳥取県西部地震の震源断層(長方形)と
対象観測点および本震・余震の震央
(数字は表-1の余震番号に対応)
表-1 2000年鳥取県西部地震の本震・余震の震源パラメタ
  時刻 東経*
(deg)
北緯*
(deg)
深さ*
(km)
MJ* 走向**
(deg)
傾斜**
(deg)
すべり角**
(deg)
M0**
(Nm)
適用
地点
本震 2000/10/6
13:30
133.348 35.273 9 7.3 150 85 -9 8.62E+18  
余震1 2000/10/17
22:16
133.425 35.193 11 4.5 129 93 -18 2.94E+15 南側
余震2 2000/11/3
16:33
133.293 35.357 9 4.6 165 84 -3 5.23E+15 北側
*気象庁より **F-netより
図-2
図-2 2000年鳥取県西部地震による複数地点における速度波形の再現
(0.2-2Hzの速度波形,黒が観測)
(時計回りに表示)

2. サイト増幅特性

本検討において用いたサイト増幅特性(野津・長尾,2005)を図-3に示す.対象地点におけるサイト増幅特性は全体に値が小さく,1Hz以下の帯域においてはTTRH02とSMN015を除けばサイト増幅特性は3以下に収まっており,いずれも非常に堅固な観測点(もしくは非常に堅固な地層が比較的浅いところに存在する観測点)であることがわかる.2004年新潟県中越地震の震源付近においてサイト増幅特性の大きい地点が多いこととは対照的である.なお,地盤の非線形性の影響が強いためここでは対象としていないが,鳥取県西部地震の震源近傍でも,平野部においては,TTR007(K-NET米子)や港湾地域強震観測の境港-Gなど,2Hz以下の帯域でサイト増幅特性が非常に大きい値を示す地点が存在する(野津・長尾,2005).

3. 位相特性

鳥取県西部地震においては多数の余震記録が得られている.そこで,数多くの余震記録から最適なものを選択するため,本震記録と余震記録のフーリエ位相の類似性を検討し(野津,2005),観測点毎に類似性の高い余震記録を選択した.選択された余震の震源パラメタを本震の震源パラメタとともに表-1に示す.また,これらの余震の震央を本震の震央とともに図-1に示す.これらの図および表に示すように,南側の観測点(OKYH09,OKY005,OKYH14,OKY004,OKYH08)では破壊開始点より南側で発生した余震1が,北側の観測点(TTRH02,TTR007,OKYH07,TTR009,SMNH01,SMN015,SMN001)では破壊開始点より北側で発生した余震2が,それぞれ選択された.なお,南側の観測点において,本震の破壊開始点よりも南側で発生した余震と本震との間に位相の類似性が見られるのは,南側の観測点の本震波形に対しては破壊開始点よりも南側の部分が大きく寄与しており,その付近で発生した余震を選択したときに,本震と余震との間で伝播経路特性とサイト特性が共有されるためであると考えられる(野津,2005).北側の観測点についても同様である.

図-3
図-3 2000年鳥取県西部地震の強震波形計算に用いたサイト増幅特性
(時計回りに表示)

4. 特性化震源モデル

作成した特性化震源モデルを図-4に示す.アスペリティは,波形インバージョンの結果(野津・盛川,2003)を参考に,図-4に示す通り,破壊開始点の南東側の比較的深い部分(アスペリティ1)と北西側の比較的浅い部分(アスペリティ2)の2箇所に設定した.アスペリティ1は南東側に向かって壊れることによりその延長上にある岡山県側の観測点(OKY005,OKYH14,OKY004,OKYH08)に幅の狭いパルスを生成する.しかし,これだけでは北西側の観測点(SMN001)における幅の狭いパルスを再現できず,北西側に向かって壊れるアスペリティ2も必要である.震源周辺の各観測点における波形の再現性に注意しながら,アスペリティのサイズと地震モーメントの調整を行った.各アスペリティのパラメタを表-2に示す.この表からわかる通り,アスペリティの面積はアスペリティ2の方が大きいが,地震モーメントはアスペリティ1の方が大きい.破壊の順序としては,最初にアスペリティ1が破壊を開始し,1.1秒遅れてアスペリティ2が破壊を開始するものとした.各アスペリティの破壊は図-4に示すアスペリティ毎の破壊開始点(☆)から同心円状に拡大するものとした.ライズタイムについてはアスペリティの幅と破壊伝播速度から片岡他(2003)の式で算定される値とした.なお,Qs値は,対象地域と関西地方との基盤岩類の類似性を考慮し,関西地方を対象とした既往の研究(鶴来他,2002)に基づきQs=63.8×f 1.00とした.この震源モデルを強震波形計算プログラムsgf51.exe(港空研資料No.1173)に入力できる形式にしたものをテキストファイルに示す.

図-4
図-4 2000年鳥取県西部地震の特性化震源モデル.
背後のコンターは波形インバージョンで得られたすべり量分布(野津・盛川,2003).
★は全体の破壊開始点,☆は各アスペリティの破壊開始点.
表-2 2000年鳥取県西部地震の特性化震源モデルのパラメタ
  Asperity1 Asperity2
破壊開始点東経(deg) 133.354 133.358
破壊開始点北緯(deg) 35.268 35.269
破壊開始点深さ(km) 8.0 4.0
長さ(km)×幅(km) 6.0×3.0 8.0×4.0
M0(Nm) 2.0E+18 1.6E+18
相対破壊開始時刻(s) 0.0 1.1
破壊伝播速度(km/s) 2.6 2.6
ライズタイム(s) 0.29 0.38
分割数 8×8×8 8×8×8

5.. 地震動の再現結果

図-2に各地点での速度波形(0.2-2Hz)の再現結果を示す.速度波形の再現性は全般に非常に良好である.断層面の南東側への延長上に位置する岡山県の観測点(OKY005,OKYH14,OKY004,OKYH08)で幅の狭いパルス状の地震波が観測されていること,震源周辺(OKYH09,SMNH01など)ではパルスの幅がより広くなっていること,断層面の北西側への延長上に位置するSMN001ではパルスの幅が再び狭くなっていることなど,先に指摘した速度波形の特徴が再現されている.また,震源直上のTTRH02での地震動も適切に再現されている.従って,ここに示した特性化震源モデルは鳥取県西部地震によるやや短周期地震動を再現するのに適したモデルであると言える.

図-5に各地点でのフーリエスペクトルの再現結果を示す.なおここでのフーリエスペクトルは水平2成分のベクトル和をとりバンド幅0.05HzのParzenウインドウを施したものである.以下,本稿に示すフーリエスペクトルはすべて同様である.多くの観測点ではフーリエスペクトルが適切に再現されており,ここに示した震源モデルが地震動の短周期成分の再現にも適したものであることを伺わせる.ただし,TTRH02とTTR007では2Hz以上の短周期成分が大きく過大評価されている.この点については,ここでの解析で考慮していない表層地盤の非線形挙動の影響が考えられる.実際,TTRH02の地盤は,本震時に非線形挙動を示していたことが既往の研究で示されている(八幡,2001).

図-5
図-5 2000年鳥取県西部地震による複数地点におけるフーリエスペクトルの再現
(黒が観測)(時計回りに表示)

謝辞

本研究では(独)防災科学技術研究所のK-NET,KiK-netの強震記録,F-netのCMT解,気象庁の震源データを使用しています.ここに記して謝意を表します.

 

参考文献

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片岡正次郎・日下部毅明・村越潤・田村敬一(2003):想定地震に基づくレベル2地震動の設定手法に関する研究,国土技術政策総合研究所研究報告No.15.

古和田明・田居優・岩崎好規・入倉孝次郎(1998):経験的サイト増幅・位相特性を用いた水平動および上下動の強震動評価,日本建築学会構造系論文集,Vol.514,pp.97~104.

鶴来雅人・澤田純男・宮島昌克・北浦勝(2002):関西地域におけるサイト増幅特性の再評価,構造工学論文集,Vol.48A,pp.577-586.

野津厚(2005):2004年新潟県中越地震の震源モデル-経験的グリーン関数を用いた波形インバージョン-,地震2,第58巻,pp.329-343.

野津厚・菅野高弘(2008): 経験的サイト増幅・位相特性を考慮した強震動評価手法-因果性および多重非線形効果に着目した改良-, 港湾空港技術研究所資料 No.1173.

野津厚・長尾毅(2005):スペクトルインバージョンに基づく全国の港湾等の強震観測地点におけるサイト増幅特性,港湾空港技術研究所資料,No.1112.

野津厚・長尾毅・山田雅行(2009):経験的サイト増幅・位相特性を考慮した強震動評価手法の改良-因果性を満足する地震波の生成-,土木学会論文集A,Vol.65,pp.808-813.

野津厚・盛川仁(2003):表層地盤の多重非線形効果を考慮した経験的グリーン関数法,地震2,第55巻,pp.361-374.

森伸一郎・圓井洋介・盛川仁(2001):2000年鳥取県西部地震における境港および米子のアンケート震度,第36回地盤工学研究発表会講演集,pp.2127-2128.

八幡夏恵子(2001):鳥取県西部地震における日野の観測地点の地盤増幅特性に対する非線形性の影響,第36回地盤工学研究発表会発表講演集,pp.2345-2346.