常時の地殻変動の検討事例
2024/4/22
地震防災研究領域
1. はじめに

2024年4月の港湾の施設の技術上の基準・同解説の部分改訂により,気候変動による平均海水面の上昇が新しく設計に取り入れられるようになった.ただし,日本列島では,海洋プレートの沈み込み等に伴う地殻の弾性変形に起因して,隆起・沈降・水平変位等の地盤の変位が常に生じている.常時の地殻変動による隆起・沈降の大きさは地域によっては気候変動による平均海水面の上昇とオーダー的に同程度となる場合もある.例えば高知県の室戸岬は年間5~7mm程度の割合で沈降しており1),これを100年間に換算すると50~70cm程度の沈降となり,平均海水面の上昇とオーダー的に同程度となる.隆起の生じている港湾では海水面の上昇が見かけ上遅くなり,沈降の生じている港湾では海水面の上昇が見かけ上速くなる.そのため,設計供用期間中における平均海水面の上昇を考慮して岸壁の高さ等を決定する場合,常時の地殻変動による隆起・沈降を併せて考慮しなければ不合理となる場合もある.ここでは常時の地殻変動による隆起・沈降の検討事例を示す.

2. 常時の地殻変動の影響が大きい事例

常時の地殻変動の影響が大きい事例として高知県の電子基準点「室戸」(940082)の例を示す(図-1).黒線は国土地理院による「電子基準点日々の座標値」2)のF5解である(2004年1月1日~2023年12月31日まで20年分のデータ).赤線はデータにフィッティングさせた直線で,50年間に換算すると21.8cmの沈降となる.一方,青線は50年間で27.5cm(100年間で55cm)海水面が上昇するとした場合の海水面の上昇速度である.この場合は地殻変動による沈降は海水面の上昇とオーダー的に同程度であり無視できない.

図-1 常時の地殻変動の影響が大きい事例(室戸,940082)

3. 常時の地殻変動の影響が無視できる事例

常時の地殻変動の影響が無視できる事例として沖縄県の電子基準点「与那城」(021094)の例を示す(図-2).黒線は国土地理院による「電子基準点日々の座標値」2)のF5解である(2004年1月1日~2023年12月31日まで20年分のデータ).赤線はデータにフィッティングさせた直線で,50年間に換算すると0.02cmの隆起となる.一方,青線は50年間で27.5cm(100年間で55cm)海水面が上昇するとした場合の海水面の上昇速度である.この場合は地殻変動による隆起は海水面の上昇に比べ無視できるほど小さい.

図-2 常時の地殻変動の影響が無視できる事例(与那城,021094)

参考文献
1) 地震調査研究推進本部,https://www.jishin.go.jp/main/chouki2/shuhou/node24.html
2) 国土地理院:日々の座標値,https://terras.gsi.go.jp/pos_main.php
謝辞
国土地理院による「電子基準点日々の座標値」を使用しました.ここに記して謝意を表します.