2011年東北地方太平洋沖地震による石巻港雲雀野埠頭における地震動の事後推定(第1版)

1. はじめに

2011年東北地方太平洋沖地震の際,石巻港周辺では,防災科学技術研究所の強震観測点(K-NET石巻;図1のNo.1)で強震記録が得られている.しかしながら,石巻港の主要な係留施設である雲雀野埠頭岸壁(-13m)(図1のNo.8~No.10)はK-NET石巻から3km程度離れているため,そこで作用した地震動はK-NET石巻で観測された地震動とはかなり異なっていた可能性がある.そこで,本研究では雲雀野埠頭岸壁(-13m)において余震観測を実施し,その結果に基づき,当該地点におけるサイト増幅特性の評価ならびに2011年東北地方太平洋沖地震(以下,本震という)による地震動の事後推定を実施した.

図-1

図1 余震観測地点()と微動観測地点(△)

2. 余震観測およびサイト増幅特性の評価

余震観測は5月13日夕方から5月16日朝にかけて実施した.観測地点は図1のNo.9(で示す)である.なお,図1にで示す地点は微動観測地点であり,これについては後述する.また,図1のNo.1(K-NET石巻)における余震観測記録は防災科学技術研究所のホームページから公開されている.そこで以下においては雲雀野埠頭における余震観測記録とK-NET石巻での記録を比較する.写真1~2に余震観測の状況を示す.

余震観測の結果,K-NETと雲雀野埠頭における同時観測記録として,表1に示す7地震の記録が得られた.各地震による各地点のフーリエスペクトル(バンド幅0.05HzのParzenウインドウを適用し水平2成分のベクトル和をとったもの)を図2に示す.K-NET石巻では常に0.95Hz付近にピークがあるのに対し,雲雀野埠頭では常に0.7Hz付近にピークがあり,地震動特性が異なっていることが伺える.K-NETに対する雲雀野埠頭のスペクトル比を図3に示す.先に示したフーリエスペクトルの特性を反映して,スペクトル比においては,0.7Hz付近に山が,0.95Hz付近に谷が現れており,スペクトル比は非常に安定している.そこで,スペクトル比の平均を求め,これにK-NET石巻における既存のサイト増幅特性(地震基盤~地表)1)を乗じることにより,雲雀野埠頭におけるサイト増幅特性(地震基盤~地表)を求めた.結果を図4に示す.この結果から,K-NET石巻では0.95Hz付近にサイト増幅特性のピークがあるのに対し,雲雀野埠頭では0.7Hz付近にピークがあることがわかる.K-NET石巻よりも雲雀野埠頭の方がピーク周波数が低周波側となっているのは,K-NETよりも雲雀野埠頭の方が地震基盤上に存在する堆積層が厚いためであると考えられる.推定された雲雀野埠頭におけるサイト増幅特性(地震基盤~地表)の数値データをテキストファイルに示す.

写真-1

写真1 余震観測を実施した場所

写真-2

写真2 地震計の設置状況

表1 観測された地震
地震番号 日時 震央地名 深さ マグニチュード 備考
EQ1 5/14 5:17 福島県沖 約40km 4.4  
EQ2 5/14 8:36 福島県沖 約30km 5.7  
EQ3 5/15 1:45 宮城県沖 約40km 4.0  
EQ4 5/15 8:51 福島県沖 約50km 5.0  
EQ5 5/15 18:56 宮城県沖 約50km 4.1  
EQ6 5/15 21:14 福島県沖 約10km 5.4  
EQ7 5/16 4:07 宮城県沖 約50km 4.6  
図-2

図2 各地震によるK-NET石巻と雲雀野埠頭のフーリエスペクトル

図-3

図3 K-NETに対する雲雀野埠頭のスペクトル比

図-4

図4 雲雀野埠頭におけるサイト増幅特性(K-NETとの比較)

3. 微動観測

上で見たように,K-NET石巻と雲雀野埠頭岸壁(-13m)では地震動特性は異なっていると考えられる.石巻港では雲雀野埠頭岸壁(-13m)以外にもいくつかの公共埠頭が存在している.それらについては,今回余震観測の対象とはしなかったが,それらの位置における地震動特性がK-NETと岸壁(-13m)のいずれに近いか確認しておくことは重要である.そこで,図1にで示すように,公共埠頭の背後で微動観測を実施した.

まず,検討に先だって,このような検討に微動H/Vスペクトルが有効であることを確認しておく.図5はK-NET(No.1)および雲雀野埠頭の余震観測地点(No.9)での微動H/Vスペクトルを比較したものである.この結果から,K-NETでは0.95Hz,雲雀野埠頭の余震観測地点では0.7Hzに微動H/Vのピークがあり,地震観測結果に基づくサイト増幅特性(図4)と非常に良く対応していることがわかる.

そこで,他の埠頭における微動H/Vスペクトルについても,同様に,K-NETにおける微動H/Vスペクトルとの比較を実施した.結果を図6~図8に示す.これらの図においては,緑の線が各埠頭の微動H/Vスペクトルを示しており,黒い線がK-NETの微動H/Vスペクトルを示している.また縦の破線は各々,余震観測点とK-NETでの微動H/Vならびにサイト増幅特性のピークである0.7Hzと0.95Hzを示している.これらの図から,まず,中島埠頭,大手埠頭,日和埠頭の微動特性はK-NETの特性に近いことがわかる(図6).潮見埠頭と南浜埠頭の特性もやはりK-NETに近い(図7).ただし,詳細に見ると潮見埠頭についてはK-NETよりもピーク周波数がやや高周波側となっている.これは潮見埠頭が日和山(図1)にやや近い位置にあり,堆積層がやや薄いためである可能性がある.雲雀野埠頭岸壁(-10m)は,位置的にはK-NETよりも余震観測点に近いが,微動特性はK-NETに近い(図8).さらに,雲雀野埠頭岸壁(-13m)背後の3箇所(北,中央,南)における微動H/Vスペクトルを見ると(図9),南側の特性は中央(=余震観測点)の特性に近いが,北側の特性は中央(=余震観測点)とK-NETの中間的な特性となっていることがわかる.このことは,雲雀野埠頭岸壁(-13m)の占める範囲内においても地下構造が変化しており,北側から中央部にかけて堆積層が厚くなっていることを示唆するものと考えられる.

以上の微動観測結果を踏まえると,地盤震動特性の観点から,石巻港は図10に示すようなゾーニングが可能である.以下において実施する雲雀野地区岸壁(-13m)における地震動の事後推定結果は,ゾーン1の施設に対しては適用しづらいと考えられる.

図-5

図5 K-NET(No.1)および雲雀野埠頭の余震観測地点(No.9)での
微動H/Vスペクトルの比較

図-6

図6 中島埠頭,大手埠頭,日和埠頭における微動H/Vスペクトル(K-NETとの比較)

図-7

図7 潮見埠頭,南浜埠頭における微動H/Vスペクトル(K-NETとの比較)

図-8

図8 雲雀野埠頭岸壁(-10m)背後における微動H/Vスペクトル(K-NETとの比較)

図-9

図9 雲雀野埠頭岸壁(-13m)背後の3箇所における微動H/Vスペクトル(K-NETとの比較)

図-10

図10 地盤震動特性の観点から見た石巻港のゾーニング

4. 地盤震動特性と被害との対応

写真3~写真9は石巻港での被害の発生状況を示したものである.これを見ると,ゾーン2に属する雲雀野埠頭岸壁(-13m)では被害が大きい.それに対し,ゾーン1に属する各埠頭は軽微な被害にとどまっている.ゾーン1に属する埠頭の中では,日和埠頭(写真5)と南浜埠頭(写真7)で岸壁背後に若干の段差が生じているものの,雲雀野埠頭岸壁(-13m)に生じた段差(写真9)と比較すれば小さい.このように,地盤震動特性と被害の大小との間にはかなりの対応関係がある.

写真-3 写真-4 写真-5
写真3 中島埠頭の状況 写真4 大手埠頭の状況 写真5 日和埠頭の状況
写真-6 写真-7
写真6 潮見埠頭の状況 写真7 南浜埠頭の状況
写真-8 写真-9
写真8 雲雀野埠頭岸壁(-10m)の状況 写真9 雲雀野埠頭岸壁(-13m)の状況

5. 雲雀野埠頭における地震動の事後推定

ここではサイト特性置換手法2)により雲雀野埠頭における地震動の事後推定を行う.この方法は,対象地点周辺における強震観測点(基準観測点と呼ぶ)で得られた本震記録に対し,サイト増幅特性の補正を行うことにより対象地点における本震の地震動のフーリエ振幅を推定し,一方,対象地点における本震の地震動のフーリエ位相は,対象地点で得られている余震など他の地震のフーリエ位相で近似することにより,対象地点における本震の地震動を推定するものである.ただし本震時にK-NET石巻など周辺の観測点で観測された地震動は大きく二つの山からなり(図11),それぞれ別のサブイベントに起因することは明らかである.この場合,本震のフーリエ位相が1個の余震のフーリエ位相で近似できないことは明らかである.そこで,このような波形に対応するために,既存のサイト特性置換手法2)を拡張し,新たな手法の開発を行った.すなわち,基準観測点における地震動から波形の前半部分と後半部分を切り出し,各々に対して既存のサイト特性置換手法を適用して対象地点における地震動に変換し,最後にそれらを重ね合わせるという方法である.

図-11

図11 2011年東北地方太平洋沖地震の際,K-NET石巻で観測された地震動

図-12

図12  K-NET石巻における本震のフーリエスペクトルとサイト増幅特性1)

また,K-NET石巻で本震時に観測された地震動はピーク周波数が0.69Hzとなっており,線形時のサイト増幅特性と比較するとピーク周波数が低周波側に移動しているため,地盤の非線形挙動の影響を受けていることは明らかである.このような場合,K-NET石巻における工学的基盤~地表の地盤モデルを作成し,等価線形解析等により地震動を工学的基盤まで引き戻すだけでは,ピーク周波数は大きく変化せず,表層地盤の非線形挙動の影響を除去することはできない.

そこで,新しい試みとして,非線形時に対応した地震基盤~地表のサイト増幅特性をK-NET石巻と雲雀野埠頭に対して概略的に求め,これを利用してサイト特性置換手法により雲雀野埠頭における地震動の推定を行った.

5.1 非線形時のサイト増幅特性の推定

非線形時のサイト増幅特性の推定にあたり,リファレンスとして,地盤の非線形挙動の影響を受けていない観測点を必要とする.ここでは,石巻市周辺でそのような条件を満たす観測点としてK-NET牡鹿を選択した.K-NET牡鹿は土質区分上は地表まで岩盤となっており,GL-2m以下ではS波速度が1100m/s以上となっているため,本震時の地震動が(ごく高周波数成分を除けば)地盤の非線形挙動の影響を受けていた可能性は小さい.K-NET牡鹿は2004年1月30日に移設されており,移設後のK-NET牡鹿のサイト増幅特性は既往の研究1)では算定されていない.そこで,ここではK-NET牡鹿と最寄りのK-NET観測点であるK-NET北上における地震観測記録のフーリエスペクトル比に基づいて,移設後のK-NET牡鹿におけるサイト増幅特性の評価を行った.具体的には

(1)2004年1月30日から2011年3月10日までの間に発生

(2)M5.0以上M7.0未満

(3)深さ60km以下

(4)K-NET牡鹿とK-NET北上の両者で記録が得られている

以上の4条件を満足する31の地震に対し,K-NET牡鹿とK-NET北上におけるフーリエスペクトルの比を計算し,これにK-NET北上における既往のサイト増幅特性1)を乗じることにより,K-NET牡鹿におけるサイト増幅特性の評価を行った.結果を図13に示す.表層地盤による増幅の影響の小さいサイト増幅特性となっている.

図-13

図13 K-NET牡鹿におけるサイト増幅特性の評価結果

次に,K-NET牡鹿で観測された本震時のフーリエスペクトルに対し,K-NET牡鹿とK-NET石巻のサイト増幅特性の比を乗じることにより,K-NET石巻における本震時のフーリエスペクトルを推定し,実際に観測されたフーリエスペクトルとの比較を行った.その結果,図14(左)に示すように,K-NET石巻における線形時のサイト増幅特性1)を使用すると,ピーク周波数が実際に観測されたものとずれ,同時に振幅が過大評価となる.そこで,先ず,非線形時における地盤のS波速度の低下に対応した補正として,サイト増幅特性をピーク周波数が0.65Hzとなるように対数軸上で平行移動すると,推定結果と観測結果のピーク周波数は概ね一致するようになる(図14中).このことは,K-NET石巻周辺の地盤における本震時のS波速度が平均的には線形時の67%程度まで低下していたことを意味する.次に,非線形時における地盤の減衰定数の増加に対応した補正として,平行移動後のサイト増幅特性を全周波数にわたり1/2倍とした.補正後のサイト増幅特性を用いると,K-NET石巻における観測スペクトルが概ね説明できるようになる(図14右).なお図14(左)(中)(右)にはそれぞれ使用したサイト増幅特性を図の下方に記入している.以上でK-NET石巻における非線形時のサイト増幅特性が求まったので,これと全く同様の補正を雲雀野埠頭におけるサイト増幅特性にも適用し(ピーク周波数が0.67倍となるよう対数軸上で平行移動させることと振幅を1/2倍とすること),雲雀野埠頭における非線形時のサイト増幅特性の評価を行った.結果を図15に示す.

図-14

図14 K-NET牡鹿での本震観測スペクトルをもとにしたK-NET石巻での
本震観測スペクトルの推定結果

(左)K-NET石巻における線形時のサイト増幅特性1)を使用.

(中)上記のサイト増幅特性をピーク周波数が0.65Hzとなるように対数軸上で平行移動して使用.

(右)上記のサイト増幅特性を1/2倍して使用.

図-15

図15 K-NET石巻と雲雀野埠頭における線形時と本震時のサイト増幅特性の推定結果

5.2 雲雀野埠頭の地表における地震動の推定

まず,図11に示すK-NET石巻における地震動に対して,60秒~80秒の範囲でテーパーをかけることにより,前半部分と後半部分の切り出しを行った.切り出された前半部分を図16に,後半部分を図17に示す.

図-16

図16 K-NET石巻の地表における地震動(前半部分)

図-17

図17  K-NET石巻の地表における地震動(後半部分)

次に,切り出された前半部分のフーリエスペクトルを計算し,K-NET石巻と雲雀野埠頭の本震時のサイト増幅特性(図15)の比を乗じることにより,雲雀野埠頭の地表におけるフーリエスペクトルを推定した.その際,

 

  (雲雀野埠頭におけるEW成分)=(K-NET石巻におけるEW成分)×(サイト増幅特性の比)

  (雲雀野埠頭におけるNS成分)=(K-NET石巻におけるNS成分)×(サイト増幅特性の比)

 

のように推定を行った.さらに,得られたフーリエスペクトルと余震記録のフーリエ位相を組み合わせ,フーリエ逆変換することにより,雲雀野埠頭における本震時の地震動の前半部分を推定した.なお,このとき用いる余震記録としては,K-NET石巻における本震観測記録の前半部分のフーリエ位相と余震観測記録のフーリエ位相の類似性を検討した上で,2011年5月16日4時7分宮城県沖の地震(M4.6)による雲雀野埠頭での記録を採用した.

また,これと同様の作業を波形の後半部分に対しても行うことにより,雲雀野埠頭における本震時の地震動の後半部分を推定した.このとき用いる余震記録としては,K-NET石巻における本震観測記録の後半部分のフーリエ位相と余震観測記録のフーリエ位相の類似性を検討した上で,2011年5月15日21時14分福島県沖の地震(M5.4)による雲雀野埠頭での記録を採用した.

最後に,雲雀野埠頭における前半部分と後半部分を足し合わせることで,雲雀野埠頭における本震時の地震動を推定した.このとき,前半部分と後半部分の足し合わせは,前半部分と後半部分の各々に対応するS波初動の間隔がK-NET石巻と同様となるように足し合わせを行った.結果を図18に示す.

図-18

図18 雲雀野埠頭の地表における地震動の推定結果

5.3 雲雀野埠頭の工学的基盤における地震動の推定

最後に表2に示す通り既存の土質調査結果に基づいて雲雀野埠頭の余震観測地点における地盤モデルを作成し,線形の重複反射理論により,工学的基盤(表2におけるS波速度318m/sの地層)での2Eを求めた.結果を図19に示す.推定された2E波の数値データをテキストファイルに示す.ここでの推定地震動の対象周波数は0.2Hz以上である.

表2 雲雀野埠頭の地盤モデル
層厚(m) S波速度(m/s) 密度(g/cm3
16.10 207.0 2.0
3.25 174.0 2.0
15.25 163.0 1.5
1.65 198.0 2.0
2.75 168.0 1.5
1.00 145.0 2.0
3.70 188.0 1.5
1.90 187.0 2.0
3.65 221.0 1.5
1.75 195.0 2.0
1.00 226.0 1.5
4.95 275.0 2.0
1.00 249.0 1.5
1.55 222.0 2.0
0.95 219.0 1.5
1.30 259.0 1.5
2.10 220.0 2.0
1.80 297.0 1.5
0.80 318.0 2.0
6.35 285.0 2.0
318.0 2.0
図-19

図19 推定された雲雀野埠頭の工学的基盤における2E波

6. 推定波の利用上の注意

ここに推定された地震動はあくまでも雲雀野埠頭岸壁(-13m)に対応したものである.3.で紹介した微動観測結果からもわかるように,ここで推定された地震動はゾーン1(図10)の施設に対しては適用しづらいと考えられる.また,ここで得られた地震動はS波速度が318m/s程度の地層における2E波であるため,解析に用いる場合,S波速度がこれと大きく異ならない地層における2E波として用いる必要がある.

謝辞

余震観測では東北地方整備局塩釜港湾・空港整備事務所石巻港出張所および仙台港湾空港技術調査事務所の皆様にたいへん御世話になりました.また本研究では防災科学技術研究所の強震記録および気象庁の震源データを使用しています.ここに記して謝意を表します.

 

参考文献

1)野津厚・長尾毅:スペクトルインバージョンに基づく全国の港湾等の強震観測地点におけるサイト増幅特性,港湾空港技術研究所資料 No.1112, 2005年12月.

2)Y. Hata, A. Nozu and K. Ichii: A practical method to estimate strong ground motions after an earthquake, based on site specific amplification and phase characteristics, Bulletin of the Seismological Society of America, Vol.101, No.2, pp.688-700, 2011.