2004年新潟県中越地震の震源モデル(第二版)
-デジタルデータ付き-
『地震2』第58巻第3号に掲載の震源モデル

 経験的グリーン関数を用いた 波形インバージョンにより2004年新潟県中越地震(Mj6.8)の破壊過程を推定した. 対象周期は1-5秒とした. 暫定版では2004年10月24日9:28に発生した余震1(Mj4.8)の記録をグリーン関数として用いたが, 震源近傍の長岡や栃木県では波形の再現性が十分でなかった. そこで今回は,本震と余震のメカニズム(www.fnet.bosai.go.jp)の類似性の他, 本震波形と余震波形の群遅延時間の類似性を考慮し,余震1の記録に加え, 2004年10月23日23:54に発生した余震2(Mj4.0)の記録を併用することとした. 本震と余震のパラメタを表-1に示す. 本震,余震1,余震2の記録がすべて得られているK-NET,KiK-netの観測点のうち,比較的震源に近く, かつ震源を取り囲むように位置している13点を選び,そこでのEW成分とNS成分の速度波形(0.2-1Hz), 計26成分をインバージョンのターゲットとした.これらの観測点を図-1に示す. インバージョンには本震波形のS波を含む10秒間を用いた.

 インバージョンで仮定した断層面の位置を図-1に示す. この断層面は,気象庁の震源(北緯37.288°,東経138.870°,深さ13km)を含むように設定し, 走向は212°,傾斜は47°,長さ40km,幅20kmとした. この領域がすべて滑ったと考えているわけではなく,取りこぼしがないように少し大きめに設定している. 断層面のうち,破壊開始点より南側部分の寄与を計算する際には余震1の波形を用い, 破壊開始点より北側部分の寄与を計算する際には余震2の波形を用いた.

 

表-1 本震と余震のパラメタ
発生日時* 北緯* 東経* 深さ*
(km)
Mj* 走向**
(°)
傾斜**
(°)
滑り角**
(°)
Mw**
本震
2004/10/23 17:56:0.3
37.288 138.870 13.0 6.8 212 47 93 6.6
余震1
2004/10/24 09:28:4.0
37.213 138.895 12.0 4.8 210 53 95 4.6
余震2
2004/10/23 23:54:7.3
37.357 139.002 11.0 4.0 237 33 150 4.1
(出典)*は気象庁,**はF-NET(www.fnet.bosai.go.jp)による

 

 インバージョンはHartzell and Heaton(1983)の方法に基づいている. 40km×20kmの断層を40×20の小断層に分割し, それぞれの小断層では破壊フロント通過後の3.0秒間に6回のすべりが許されるものとした. 各々のすべりによるモーメント解放量が余震モーメントの何倍であるかを未知数として インバージョンを行う.破壊フロントは気象庁の震源から同心円状に速度2.0km/sで広がるものとした. 基盤のS波速度は3.5km/sとした. インバージョンには非負の最小自乗解を求めるためのサブルーチン(Lawson and Hanson,1974)を用いた. また,すべりの時空間分布を滑らかにするための拘束条件を設けた. 観測波と合成波を比較する際には記録のヘッダに記載された絶対時刻の情報を用いている.

 図-2にインバージョンの結果として得られた最終すべり量の分布を示す. 同図に示すように,破壊開始点(気象庁の震源,a)から, 破壊はやや南寄りの上方に向かって進展したと推定され, その進展した先に主要なアスペリティ(b)を有する震源モデルが得られた. この主要なアスペリティの位置は暫定版とほぼ同様である. ただし,今回のバージョンでは破壊開始点より北側にも副次的なアスペリティ(c)が見られる.これは,暫定版では見られなかったものである.ここでのインバージョンでは,直接には各々の小断層におけるモーメント解放量の余震モーメントに対する比が明らかになるだけであるが,余震のモーメントとしてF-NET(www.fnet.bosai.go.jp)の値を用いると,図-2に示す本震の最終すべり量の分布はMW=6.8に相当する.

 すべりの時空間分布を図-3に1秒毎の滑り量として示す. 破壊開始4秒後から6秒後の間に主要なアスペリティで滑りの生じている様子がわかる.

 図-2の最終滑り量分布図に示すa~cの3箇所について, インバージョンの結果として得られた滑り速度時間関数を図-4に示す. もっとも滑り量の大きいbでは,滑り速度の最大値も最も大きくなっている. 3箇所とも破壊フロント通過後早い段階で滑り速度が最大値を示し, その後,徐々に滑り速度が低下しており, 動力学的観点からも不合理でない滑り速度時間関数が得られている.

 インバージョンに用いた観測点における観測波と合成波の比較を以下に示す. これらの図において,ハッチングをした部分がインバージョンに用いた部分である. 観測波と合成波の一致はある程度満足のいくものである. インバージョンに用いなかった後続位相もある程度再現されている.

 なお,図-2に示す震源モデルの小断層毎,時間ウインドウ毎のモーメント解放量 (破壊開始点より南側では余震1のモーメントに対する比, 破壊開始点より北側では余震2のモーメントに対する比)を参考のためテキストファイルに示す.

 

観測波と合成波の比較
新潟県 NIGH01 NIGH09 NIGH10 NIGH11 NIGH13 NIGH15 NIGH18
長野県 NGNH29
栃木県 TCGH07 TCGH08
福島県 FKS026 FKS028 FKSH21

 

 次に,ここで得られた震源モデルを用い,より広域での波形の再現性を調べた. 本震波形の再現を行うためには,本来,余震1と余震2の両方の記録を必要とするが, 両者の記録が得られている地点は限定的である. しかし,図-2の震源モデルでは主要なアスペリティは断層面の南側部分に位置しているので, 断層の走向を南南西に延長した方位では, 破壊伝播の効果も加わり,断層面の南側部分の寄与が支配的になるものと考えられる. そこで,図-5に示すように断層の走向の延長上にある観測点に対し,余震1の記録を用い, 断層面の南側部分の寄与だけを考慮して本震波形を合成した.

 結果を以下に示す. この地域で得られた地震動は地下構造の複雑さを反映して後続位相の比較的良く発達したものとなっているが, その後続位相を含め,本震の速度波形がかなり良好に再現されていることがわかる.

 

観測波と合成波の比較(図-5の11箇所)
長野県 NGN001 NGN002 NGN003 NGN004 NGN006 NGN007
NGNH07 NGNH27 NGNH28 NGNH34
群馬県 GNMH08

 

謝辞:本研究では(独)防災科学技術研究所のK-NETおよびKiK-netの強震記録,F-NETのCMT解,気象庁の震源データを使用しています.ここに記して謝意を表します.