2004年9月5日紀伊半島沖の地震による港湾・空港での強震記録
(改訂版)
1. はじめに
2004年9月5日から7日にかけて紀伊半島南東沖でマグニチュード6を越える地震が3回発生した.地震の規模は9月5日19:07のものがM6.9,9月5日23:57のものがM7.4,9月7日8:29のものがM6.4である.港湾・空港でも数多くの強震記録が得られた(図-1).今回の地震は今世紀の前半にも発生すると予想される想定東南海地震の震源域近くで発生していることから(図-1),今回得られた強震記録は,想定東南海地震による各地の揺れを推定する上で貴重な資料である.ここでは,これらの地震による港湾・空港での強震記録を紹介し,同一地点で取得された過去の記録と比較するなどして,それらの記録からどのような示唆を得ることができるか考察する.

2. 神戸港の記録
図-2に神戸港の港湾工事事務所(神戸-G),摩耶埠頭(神戸摩耶-G)および六甲アイランド(六甲-G)で得られたM7.4の記録の加速度フーリエスペクトルを示す.なお本稿に示すフーリエスペクトルはすべて水平2成分のベクトル和であり,バンド幅0.05Hzのパーセンウインドウを施したものである.図-2を見ると,同じ神戸港の中でも地点によって振幅には大きな相違があり,六甲-Gでのフーリエスペクトルが飛び抜けて大きいことがわかる.これらの地点は互いに近接していることから,震源特性や伝播経路特性に差があるとは考えにくく,サイト特性の差であると考えられる.六甲-Gは六甲アイランドの南岸に位置し,他の二地点と比べ堆積層の厚いところにある.松島・川瀬(2000)による当該地域の地下構造モデルによると,六甲-Gは基盤深度2000mのコンターに近く,他の二地点は基盤深度1000mのコンターに近い.このような地下構造の相違が,フーリエ振幅の差となって現れているものと考えられる.なお,今回の地震では当該港湾の表層地盤の挙動は線形の範囲にとどまっていたと考えられ,そのために,大地震の場合よりも地点間の差が顕著に現れている可能性がある.

 図-3は六甲-Gでの複数の記録を比較したものである.今回の2地震に加え,過去の記録の中から,長周期側においてS/N比の良好な記録として2001年芸予地震(M6.7)の記録を選択し,比較している.これを見ると,いずれの記録も周期2秒と6秒に顕著なピークのあることがわかる.畑山・他(2004)は苫小牧港における既往の大地震の記録を比較し,同一地点においても地震によってかなり卓越周期に違いのあることを指摘しているが,六甲-Gにおいては,苫小牧港と異なり,地震動の卓越周期はかなりサイトスペシフィックに決まっているように見える.なお,六甲-Gの位置する六甲アイランド南側岸壁では,1995年兵庫県南部地震の際,コンテナクレーンの倒壊する被害が発生している(写真-1).兵庫県南部地震では神戸港のすべてのコンテナクレーンに何らかの損傷が生じたが,コンテナクレーンの倒壊が生じたのは六甲アイランド南側岸壁だけである.地震時にコンテナクレーンの脚部に浮き上がりが生じると,比較的長周期の揺れに対して応答しやすくなる.従って,六甲アイランド南側岸壁において比較的長周期の揺れが卓越しやすい性質とクレーンの倒壊との間には因果関係がある可能性がある.

3. 関西国際空港の記録
関西国際空港では地表の4地点で記録が得られている.これらの記録を比較すると,地点間の差はさほど大きくないことがわかる(図-4).図-5はW地点における複数の記録を比較したものである.過去の記録(1995年兵庫県南部地震の記録)との比較も行っている.関西国際空港では,もともと,周期5秒程度の揺れが卓越しやすい性質のあることが知られていたが(例えば野津他,2003),今回の一連の地震でもこのことが確認された.詳しく見ると,地震の規模が大きくなるにつれて,スペクトルのピークが若干長周期側に移動していることがわかる.

 

参考文献
松島・川瀬(2000):日本建築学会構造系論文集,第534号,pp.33-40.
畑山・他(2004):地震2,第57卷(印刷中).
野津・他(2003):基礎工,第31卷,pp.42-46.