直下型地震の揺れの向きを考慮した耐震強化岸壁の配置計画

はじめに

 国土交通省では①震災時の緊急物資・避難者・啓開用建設機械等の海上輸送, ②震災直後から復旧完了までの一定の幹線貨物輸送機能の確保を目指して耐震強化岸壁の整備を全国で進めています.
耐震強化岸壁にとって最も脅威となるのは,言うまでもなく兵庫県南部地震のような直下型の大地震です. 敵に備えるにはまず敵を知ることが大切であると言われており, 直下型地震の揺れの性質を良く調べておくことが大切であると思います. ところが,最近の研究により,直下型の大地震の揺れの向きには一定の法則があること, これを利用すれば耐震強化岸壁の地震時の変形を大幅に少なくできることなどがわかってきました.

 

阪神・淡路大震災で神戸港の揺れの向きは?

 我が国の港湾地域では1960年代から強震観測が実施されています. 港湾地域強震観測が直下型の大地震の揺れを捉えたのは1995年の兵庫県南部地震が最初です. 図-1にこのときの神戸港の記録を示します. これを見ると,揺れは北北西-南南東の方向に卓越していたことがはっきりわかります. 兵庫県南部地震を引き起こしたのは六甲-淡路活断層系です. 図-2には余震分布1)から推定される本震の震源断層を示しています. 東北東-西南西に延びる震源断層に対して,神戸港の揺れはこれと直交する方向であったことがわかります.
このような著しい揺れの方向性は神戸港の被害にもあらわれています. 図-3にはGPSが捉えたポートアイランド及び六甲アイランドの岸壁の残留変位の分布2) を示しますが,東西方向の法線を有する岸壁がより大きな被害を受けていることがわかります. 岸壁は法線直交方向の揺れに弱いため,このような現象が生じました.

図-1 兵庫県南部地震の神戸港の強震記録
 

図-2 余震分布から推定される兵庫県南部
地震の震源断層

図-3 GPSが捉えたポートアイランド及び六甲アイランドの
岸壁の残留変位の分布2

他の直下型地震ではどうだったか?

 直下型地震ではいつもこのように断層と直交する向きの揺れが強いのでしょうか? また,兵庫県南部地震は横ずれ断層(図-4参照)の地震ですが, 横ずれ断層や逆断層といった断層の種類(図-4参照)によって変わってくるのでしょうか?

横ずれ断層

逆断層

 このことに興味を持って研究している地震学者の一人に武村雅之氏がいます. 我が国では兵庫県南部地震以前には直下型の大地震の強震記録は得られていないので, 強震記録に基づいた調査ができない状況にありました. このため武村氏は地震による墓石や建物の倒壊方向を過去の文献で調べ, 震源断層が横ずれ断層か逆断層かを問わず,震源の近くではほとんどの場合, 断層と直交する方向の揺れが卓越することを突き止めました. 一例として図-5は1896年陸羽地震(マグニチュード7.2,逆断層)の震源付近の揺れの方向を示しています.

図-5 1896年陸羽地震(マグニチュード7.2,逆断層)の
震源付近での墓石や家屋の倒壊方向3)

 海の向こう,米国のカリフォルニアでは昔から直下型地震が多く, 兵庫県南部地震より以前から直下型地震の記録が得られています. それによると,やはり震源の近くで断層と直交する方向の揺れが卓越する性質があらわれています. その一例として,兵庫県南部地震のちょうど1年前, 1994年1月17日にロサンゼルスの近郊でおこったノースリッジ地震(マグニチュード6.7,逆断層) の震源付近の揺れの方向を図-6に示します.
ノースリッジ地震では断層のずれが地表まで到達しませんでしたが, 地下で動いた断層面の位置は余震分布などから推定されています. 図-6の長方形はその地表面への投影を示しています. 一方,地下で動いた断層面を地表まで延長していった時に, これが地表面と交わる線は西北西-東南東の方向を向いています(図-6の破線). もしも断層のずれが地表まで到達していれば,およそこの線に沿って地表地震断層が出現したはずです. この線に対して,震源付近の各地点で観測された揺れの向き(図-6の赤線) はほぼ直交していることがわかります.
以上のような揺れの方向性は断層の傾斜角やずれの向きにあまり依存しないことが, 港湾空港技術研究所の詳しい検討で明らかにされています. 詳しくは参考文献4)を参照してください.

図-6 1994年ノースリッジ地震(マグニチュード6.7,逆断層)の
震源付近での揺れの方向4)