基礎研究

2015年度に実施した基礎研究

  研究実施項目名(基礎研究)
1 港湾地域および空港における強震観測と記録の整理解析
2 地震災害調査
3 広域地盤の非線形挙動を考慮した海溝型巨大地震等の強震動予測手法の開発
4 地震動連成作用下の液状化機構と評価予測に関する研究
5 津波防災施設の地震および津波による被害程度の予測技術の開発
6 海洋-地球結合津波モデルの開発
7 海象観測データの集中処理・解析と推算値を結合させたデータベースの構築
8 メソスケール気象モデルを用いた沿岸の海象・海洋環境予測モデルの開発
9 日本の内湾における超強大台風の風・高潮・波浪特性の究明
10 沿岸域におけるCO2吸収・排出量ならびに炭素隔離量の計測手法確立へむけた調査・実験・解析
11 閉鎖性内湾における環境の常時連続観測とその統計解析
12 内湾域における浮遊懸濁粒子の沈降特性の解明とモデル化
13 平均海面上昇等に伴う海岸地形変化の実測と将来予測および対策検討
14 海底地盤流動のダイナミクスと防波堤・護岸の安定性評価に関する研究
15 既存施設近傍の地盤改良技術に関する研究
16 転炉系製鋼スラグの海域利用条件下における耐久性に関する研究
17 分級による土質特性改善の定量化に関する研究
18 暴露試験によるコンクリート、鋼材及び各種材料の長期耐久性の評価
19 土質特性を考慮した海洋鋼構造物の電気防食設計の高度化
20 離島における炭酸カルシウム地盤の形成と安全性に関する現地調査と情報解析

基礎研究の事例

広域地盤の非線形挙動を考慮した海溝型巨大地震等の強震動予測手法の開発

  • 本研究では、2011年東北地方太平洋沖地震の際に取得された強震記録、及び著者らが開発した震源モデルを活用して、多重非線形効果の観測事実に基づく検証を行うとともに、表層地盤の非線形挙動を考慮した強震動シミュレーションを行い、その有効性の確認を行った。具体的には、東北地方太平洋沖地震の際に得られた強震記録のうち、表層地盤の非線形挙動の影響が明確に表れているものに着目し、前述の震源モデル、及び経験的サイト増幅・位相特性を考慮した強震動評価手法を用いた強震動評価を行った。
  • 検討の結果、いずれの地点においても、多重非線形効果に起因すると考えられる卓越周波数の低下と後続位相の継続時間の短縮が観測波形に認められ、また、これらの効果に対応する非線形パラメータを考慮することにより観測波形の再現精度が向上し、非線形パラメータを考慮した強震動シミュレーションの有効性を確認することができた。
  • また、この結果に基づき、予測問題におけるパラメータ設定方法についても検討を行い、地震動の振幅に応じた非線形特性の変化を繰り返し計算で考慮する手法を提案した。こうした繰り返し計算手法を、断層モデルを用いた強震波形計算に適用したのは本研究が最初である。
多重非線形効果の概念図
多重非線形効果を考慮した強震動シミュレーション結果(赤)と観測結果(黒)の比較

 

暴露試験によるコンクリート、鋼材及び各種材料の長期耐久性の評価

  • 港湾・空港施設は、海洋環境下という極めて厳しい環境に位置する中で、50-100年程度の耐用年数が要求される。このことから厳しい環境下における各種建設材料(コンクリート系,鋼材,防食材料等)の長期耐久性の評価を、実環境下における暴露試験に基づいて行うことが求められる。
  • そこで、本研究では、各種建設材料の長期耐久性を、実環境下における長期暴露試験を基に評価し、使用材料を選択する際の有益な情報の提供を図ることとした。
  • 各種建設材料のうち、鋼材の被覆防食工法については、波崎観測桟橋において長期暴露試験を実施しており、桟橋の鋼管杭(計47本)に適用された多様な被覆防食工法の長期耐久性の評価を行っている。
  • 被覆防食工法に関しては、その性能評価の手法が確立されていないのが最大の課題であることから、この性能評価手法について検討を行った。
  • ポリエチレン被覆工法(有機被覆工法)における体積固有抵抗は、時間とともに低下する。この体積固有抵抗の減少は、ポリエチレン被覆中への水分の浸透の影響と考えられる。この水分浸透をFickの拡散浸透モデルを用いて時間の平方根に比例して水分浸透が進むと仮定し、さらに水分浸透と体積固有抵抗の対数値が比例関係にあると仮定した場合の関係を直線で示す。この体積固有抵抗の防食性能の限界値としては、過去の知見等に基づくと 1.4×108 Ω·cm程度と考えられる。この限界値に到達する時間は、直線補間した場合、約610,000hour(約70年)となった。
  • ポリエチレン被覆の性能低下予測の可能性が示されたが、本手法の現地測定は容易なものではなく、より簡易でかつ高精度な測定手法の確立が今後の課題である。

 

   
ポリエチレン被覆工法における性能(体積固有抵抗)の経時変化験 波崎観測桟橋での被覆防食工法の長期暴露試

津波防災施設の地震および津波による被害程度の予測技術の開発

  • 本研究では、2011年東北地方太平洋沖地震の際の地震動と津波の複合作用による被災状況を模型実験により把握し、地盤・構造物・海水から構成される施設を対象とすることから有限要素法(FEM)、個別要素法(DEM)、粒子法(MPS、SPH)などの解析手法について、各々の解析手法の長所・短所および適用限界を考慮し、被災シミュレーションの実務への適用性を検討する。
  • 今年度は、マウンドの洗掘挙動が再現できた流体挙動の再現性の良い粒子法(SPH)とマウンドや地盤のモデル化に適した個別要素法(DEM)のカップリングプログラムについて、マウンド内での浸透現象の再現手法について検討した。
  • マウンド内での浸透現象の再現手法には、固体間隙中の平均的な流れ場における相互作用力を抗力モデルに基づいて計算する手法を採用し、透水試験シミュレーションによる検証を実施した。DEM充填層の間隙率が概ね0.45になるように補正することで、実際の捨石マウンドの間隙率に基づいた相互作用力を疑似的に再現した結果、流速と水位差の関係について固体間隙中の流れ場を表現可能な半経験式を良好に再現できた。
  • 遠心場における津波越流実験を対象に、マウンド内への浸透現象を考慮した数値シミュレーションを実施した。マウンドの洗掘に対する抵抗は、砕石の凹凸度の影響を受けることが明らかとなり、マウンドのモデル化パラメータとして砕石の凹凸度を表す球形率を用いることで、実験の洗掘状況を再現できることが分かった。

 

沿岸域におけるCO2吸収・排出量ならびに炭素隔離量の計測手法確立へむけた 調査・実験・解析

  • 港湾域は多くのCO2排出源を抱えており、気候変動への対応は喫緊の課題となっている。また港湾整備事業における費用対効果(B/C)の向上が強く求められている。そのような状況にあって、海洋生態系(ブルーカーボン)によるCO2吸収や炭素貯留が気候変動の緩和機能として注目されている。海外・国内を問わず、ブルーカーボンの保全・再生事業による緩和機能の便益計上には、MRV(Measurement, Reporting and Verification;測定、報告及び検証)が不可欠である。
  • そこで、本研究では、定量評価手法の確立を目指し、室内実験および現地実験、数値解析などを実施した。
  • 今年度は、計測手法の取りまとめを行い、計測手法ガイドラインとして港湾空港技術研究所資料にて公表した。放射性炭素同位体を利用した海草による大気中CO2同化量の推定方法を開発し、世界で初めて定量化に成功した。また、干潟実験施設において、底生生物バイオマス中の炭素量の経年変化を評価した。沿岸域の炭素循環を表現できる生態系モデルの構築も進めた。フランス国パリで開催されたCOP21に参加した。

 

 

(a) 海面に露出する海草の様子
(b) 海草による大気中CO2同化量の推定方法を開発し、世界で初めて定量化(Watanabe and Kuwae, 2015)

 

 
干潟実験施設での生物バイオマス中炭素量の変化の計測

平均海面上昇等に伴う海岸地形変化の実測と将来予測および対策検討

  • わが国のみならず世界中で砂浜が減少している状況のもと、エルニーニョ現象などに代表される地球規模の自然現象が砂浜の侵食に与える影響が世界で調べられている。しかしながら、より広域(例えば環太平洋など)における砂浜変動とエルニーニョ現象などの自然現象との関係を統一した手法で解析する検討は行われてなかった。
  • そこで、本研究では、アメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、日本の研究グループが、環太平洋諸国の48海岸(茨城県波崎海岸、愛知県表浜海岸3カ所を含む)を対象として、エルニーニョ、ラニーニャなどの自然現象が砂浜の変動に与える影響を検討した。解析では、砂浜の侵食、堆積とエルニーニョなどの自然現象を表す9個の指数との相関などを検討した。
  • その結果、アメリカのカリフォルニアとハワイ、日本の茨城県沿岸ではエルニーニョ現象発生時の冬季に大きな侵食が生じやすいこと、一方、アメリカ西海岸北部やオーストラリアではラニーニャ現象発生時の冬季に侵食が生じやすいこと、などが明らかとなった。また、エルニーニョ現象及びラニーニャ現象が環太平洋の砂浜の侵食に対する影響の度合いは地域によって差があった。
  • 今後の気候変動によってエルニーニョ現象及びラニーニャ現象の発生頻度が増大することが予想される。本研究成果は、そのような気候変動の影響を受けて環太平洋諸国で海岸侵食が増大することを示唆しており、わが国においてもその対策が急がれる。

 

 

 

 
nature geoscienceの表紙に掲載された茨城県波崎海岸 における低気圧による波の遡上の様子

 

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