2A 海域環境の保全、回復に関する研究

研究の目的・背景

  • 東京湾、大阪湾、伊勢湾等の閉鎖性内湾では、かつてのような極めて悪化した水質の状態からは回復しつつあり、それぞれの再生推進会議が定めた再生目標に見られるように、単なる「きれいな海」の実現から、生物相の「豊かな海」の再生へと人々の期待と関心が転換しつつある。また、環境省は、生物生息に密接に関連した底層酸素濃度や透明度を新たな水質環境基準に加えようとしている。このようなことから、依然として生物生息の脅威となっている貧酸素化の軽減など、多様な生物生息場の確保に向けた技術開発が望まれている。
  • 一方、国連環境計画(UNEP) 報告書(2009年)において、沿岸生態系の働きによって CO2の吸収・固定が極めて活発に行われており、地球温暖化の軽減を図るために藻場等の沿岸生態系を保全することが極めて重要であるとされ、ブルーカーボンという用語とともに一躍注目され始めている。
  • そこで、本研究テーマでは、豊かで多様な生物生息を可能とし、地球温暖化の緩和にも貢献する沿岸海域の再生を実現させるための研究開発を行う。この目標を達成するため、生物生息の妨げとなっている流動や水質、底質の改善策の提案に向けた研究を実施するとともに、干潟・藻場等の基礎的な生態学的・地盤工学的知見を総合化して、浚渫土砂有効利用の一手法である生物生息場造成を積極的に推進するための研究開発を行う。

研究の概要

  1. 沿岸域が有する地球温暖化緩和機能の評価に関する研究
    沿岸海域を取り巻く物理・化学・生物学的過程の中で特に重要となる、外海との交換過程、海底境界層を通した微細粒子の輸送や物質循環機構、及び藻場・干潟生態系の基本構造や機能を解明する基礎研究を実施する。

  2. 生物多様性を実現する干潟・浅場の修復技術に関する研究
    干潟浅海域生態系については、栄養段階の高次に位置する生物の食性の解明や、地盤工学的尺度と底生生物の活動の関連性に関する研究結果をベースに、我が国の沿岸海域をより生物多様性のある海域に回復させるための研究を行う。

  3. 閉鎖性水域の水環境改善技術に関する研究
    貧酸素化や青潮の原因となっている底質の悪化や海底の窪地について、埋戻しや覆砂を含む水環境改善技術を体系化させるとともに、様々な保全・回復メニューの中からより有効に内湾の環境再生を進めるために最も適切なメニューの選択や組み合わせを行い、好適地の選定を行うための評価ツールの開発を行う。

  4. 沿岸域の化学物質管理に関する研究
    環境修復のための有力な材料である浚渫土砂については、その化学的な安全性を確保しつつ、生物生息場つくりへの浚渫土砂の有効利用を促進させるための技術開発を行う。

  5. 海底境界層における物理・化学過程の解明と堆積物管理に関する研究
    沿岸域の炭素循環過程の理解を通して、沿岸域生態系が有するCO 2吸収・固定能力を定量化し、それらを強化する手法を提案する。

2015年度の活動

  • 国内外の藻場・干潟・サンゴ礁とその流域、外海において、炭素動態に関連する水底大気質の実測や、干潟水槽・メソコスム水槽において、炭素動態に関する実験を行うとともに、計測手法を検討し、ガイドラインとして港湾空港技術研究所資料にとりまとめた。
  • 炭素動態に関する現地観測システム開発と分析システム開発を開発し、炭素主軸の生態系モデル開発を行うとともに、都市内湾全体がCO2吸収源となりえるメカニズムに関する仮説を提唱した。
  • 本研究成果は、沿岸域生態系のCO2吸収効果が解明できれば、その吸収機能の有効活用方策(アマモ場整備等によるCO2吸収量増大や、温室効果ガス排出量取引による経済効果等)の提案につながることが期待されている。
  • 干潟実験施設において、鳥類による餌選択と食物網全体への影響に関する飼育実験を継続した。その結果、鳥類のいる実験区は、いない区と比較して小型小動物が捕食され少ないこと、糞による施肥効果で植物(バイオフィルム含) が多いことが年間を通じて観察された。
  • 国内外の干潟・湿地において、餌生物や糞の採取、一時捕獲、撮影などにより、形態や行動に関するデータを取得するとともに、形態・採餌行動の画像解析、安定同位体比・熱量分析データを用いた食性解析を行った。
  • カナダのバンクーバー・デルタ港拡張事業の環境影響評価では、カナダ環境省が本研究で明らかとなった“鳥類の主食としての微生物”の保全を重要評価項目として公式に定め、現在アセスメントが進行中である。現地調査では、鳥類が濃密に集まり採餌している場所は、河川や地下水からの淡水の流入し、特定の塩分範囲を示しており、特定の珪藻類が生息していることがわかった。

海草場のみならず、都市内湾スケールにおいてもCO2吸収源となりうる理由を説明する炭素フロー

 

   
鳥類が濃密に集まり採餌していた場所で観察されたバイオフィルム中の珪藻類(Nitzschia属)
カナダ・バンクーバー近郊の干潟にて

 

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